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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

yecの国際防災事業 インドネシア・メラピ火山防災事業

  • 海外事業

1980年代後半から世界中で防災の意識が高まり、防災先進国といわれる日本への期待は益々高まっています。我が国はODA等を通じて国際防災協力を推進 しており、yecも長年にわたり発展途上国の防災支援事業に取り組んできました。今月より2回にわたり、その一部をご紹介します。

防災

中部ジャワの古都を訪れて

Written by MIZUNO Naoto 水野直人

インドネシアは、130の活火山(世界の16%相当)をもつ世界でも有数の火山国です。国の政治・経済の中心地であるジャワ島には20を超える活火山がありますが、古来よりジャワの人々は肥沃な土壌と豊富な水の恩恵を受ける火山周辺に生活を営んできました。

ボロブドゥール、プランバナンという2つの世界遺産を有する中部ジャワの古都、ジョグジャカルタもこのような地域の一つであり、市の中心部から30km北方に位置するメラピ火山がもたらす恩恵によって繁栄を享受するとともに、度重なる噴火とそれに伴う土石流災害に人々は苦しんできました。

このメラピ火山地域に対して、我が国は1970年代後半に実施した防災基本計画策定事業を皮切りに、20年にわたる技術協力事業と2度の円借款事業を実施してきましたが、yecはこの2度の円借款事業のコンサルティング・サービスに従事し、地域の発展はもとより、インドネシアの火山砂防技術の発展に貢献してきました。

photo:
<< メラピ火山とゲンドル川に流下した火砕流堆積物

ともに学ぶ -第一期・第二期事業-

photo: 鋼製ダブルウォールダム
photo: 多目的砂防ダム
photo: 2006年に発生した火砕流

この2つの円借款事業の中で、yecは鋼製ダブルウォールダムやスリットタイプダム、砂防ダムを利用した河川横断道路、土石流監視システムの強化、最新の解析技術に基づく防災基本計画の見直し等、インドネシア初となった多くの技術を適用し、また技術移転を行ってきました。

事業が開始された1980年代には砂防技術をもったエンジニアが十分ではなく、経験の浅い工事事務所職員と連日夜を徹して共に作業を行った事もありましたが、日本人技術者と共に汗を流してきた彼らは、今ではインドネシア国での砂防事業の中心的な役割を果たしています。

一方で、日本では考えられないような噴火周期と規模、さらにはそれまで日本でも技術的経験のなかった火砕流災害への対応から、日本の設計基準が全くといっていいほど当てはまらない事もありました。我々日本人技術者も戸惑い、悩むことも多かったのですが、彼らと共に考え、ひとつずつ答えを探り出すことで事業を築き上げてきたのです。その点で、この事業は従来の技術移転型ODA事業ではなく、共に未知の技術的難問に立ち向かう共同研究の実践の場でもあったわけです。そして、ここで得られた貴重な臨床技術は、逆輸入される形で日本における火砕流対策及び火山泥流対策などに反映されています。インドネシアへの協力が、思いがけない形で日本に戻ってきたのです。

火砕流
火砕流とは、マグマの噴出や溶岩ドームの崩壊によって、これらの粉砕された固体物質が高温のガスとともに火山の斜面を高速で流れ下る現象を指す。火砕流の堆積物は、雨で侵食され、火山泥流・土石流(Lahar)となって再び流れ下り、下流の地域へ大きな被害をもたらす場合もある。日本の事例では、雲仙普賢岳で1991年6月に発生し人的被害をもたらした火砕流が有名である。

建設事業の枠を超えて

photo:

噴火後、半年を経ても火砕流堆積物の内部は高温を保っている。上流からの土石流で堆積物表面が侵食され、高温部と触れる事で水蒸気爆発を起こし、さらに大規模の熱泥流となって流下する。

これまでの2つの事業を通じて、地域の安全性は飛躍的に高まり、人々は安心して暮らせるようになりました。しかし、1990年代からメラピ火山の活動周期が早まり、頻発する噴火によってその火口周辺に大量の土砂を生産し続けています。依然として土砂災害を引き起こす可能性は高く、砂防施設をさらに整備する必要があります。また、メラピ山麓では、建設骨材のための砂利採取が盛んに行われており、近年無差別な砂利採掘により地域環境や砂防施設に悪影響が出るようになりました。さらに、この無差別な砂利採掘により、メラピ山の下流部のプロゴ川下流域では河床低下が問題になっており、国道橋や鉄道橋が倒壊の危機にさらされています。

そこで、次のことを目的とした第3期円借款事業が締結され、我々は三たび、プロジェクトに立ち向かう事になりました。

  1. 防災を通じた地域開発
  2. 河床を安定させることにより、下流の河川施設を守る
  3. 適正な土砂管理により、環境に優しく持続的な砂利採掘を実現する
  4. 砂防施設の多目的利用、灌漑堰の修復等により地域経済に貢献する
photo: 優先緊急工事
photo: わずか2週間で満砂した砂防ダム

国内での準備作業をほぼ終え、いざ現地へ乗り込もうとしていた矢先の2006年4月、メラピ火山は再び活動を活発化させ、6月に発生した大規模火砕流によって2名の尊い命が失われました。この火砕流による大量の土砂が、土石流となって下流域に多大な被害を及ぼす恐れがあったことから、インドネシア政府は、円借款事業予算を用いた最優先緊急工事の実施を決定し、年内に火砕流が流下した2つの河川に計6基の砂防施設を建設するという使命が我々に課されました。

実質3ヶ月にも満たない工期、依然として噴火活動を続ける現場、また中部ジャワ地震の余震が残る中での業務でもあり、設計・施工は困難を極めました。しかしながら、メラピを熟知したyecエンジニアをはじめとするコンサルタントの不眠不休の奮闘と施工業者の努力の甲斐あって、年末には砂防施設がその機能を発揮する段階にまでこぎつける事が出来ました。これらの砂防施設はすぐにその効果を発揮し、幾度となく発生した土石流を食い止め、下流域の安全を守っています。2007年には優先緊急工事として10基の建設が予定され、コンサルタントは一息つく暇もなく、奮闘を続けています。

photo: 村での住民説明会
photo: 伝統芸能である影絵(ワヤン・クリット)

今回の事業では、施設の建設と共に予警報システムの運用、避難体制の確立、砂防・河川施設の維持管理、砂利採掘管理といったソフト対策にも重点がおかれています。そのため、住民意識の向上と事業への参加、防災教育、人材育成が特に重要になっており、yecはこの点に十分に配慮した事業運営を行っています。その一例として、計画された全ての施設に対し、近傍の村で住民説明会を開催し、施設の計画・設計に対する住民の意見を反映しています。また、参加型農村調査(PRA)を用いた社会調査を実施し、地域の伝統や風習も踏まえた防災や砂利採掘に関する住民意識を調査し、これに基づいた避難計画、砂利採掘管理計画を立案しています。さらに、2008年からは、円借款事業としては初の試みとなる防災・砂利採掘管理パイロットプロジェクト、避難訓練、防災イベントが実施されます。

2006年12月、火砕流被災地にほど近い村で、事業開始の報告とその成功を祈願し、ジャワの伝統である影絵(ワヤン・クリット)の奉納が行われました。公共事業省水資源総局長をはじめとする政府高官、工事事務所関係者、そして200人を超える村人達と共に参加した私たちは、地域のために尽くすという思いを新たにし、今もその思いは萎えることなく事業に取り組んでいます。

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