1. TOP
  2. ちょっとイイ話
  3. 2008年
  4. 国民を支えるアセットマネジメント

八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

社会インフラを考える 国民を支えるアセットマネジメント

  • 研究開発

国民の生活や安全を守るために効率的に社会インフラを維持管理する一方法であるアセットマネジメントについて触れてみたいと思います。

社会インフラを考える

社会インフラを維持管理

Written by KUROYANAGI Kouichi and 畔柳耕一

Written by WATANABE Kengo 渡辺憲吾

私たちが普段何気なく利用している道路や橋などの社会インフラは、人と同じように年をとります。老朽化した社会インフラをそのまま放置しておくと破損し、皆さんの生活に多大な影響を与えます。また災害にも弱くなってしまいます。

そこで、国民の生活や安全を守るために社会インフラを効率的に維持管理する取り組みのひとつとして「アセットマネジメント」が挙げられます。アセットマネジメントと言うと、金融関係のCMでもお馴染みの"資産運用"を真っ先にイメージしてしまいますが、道路や橋などの社会インフラを資産と捉え、その運用として「維持管理」を行うという意味で、私たちの業界では多く使われ実践されています。まさに、国民を支えるアセットマネジメントなのです。

Ⅰ.構造物の老化

古いことって悪いことなの?

近年、社会インフラをはじめとする公共施設において、老朽化による事故や問題が話題となっています。道路橋では米国ミネソタ州のミシシッピ川に架かるトラス橋が平成19年8月に崩落しました。国内でも三重県にある国道23号線の木曽川大橋で、橋梁の一部が錆によって破断する事故がありました。建築物では"金閣寺の耐震問題"や"奈良県の鹿の角きり会場の維持管理費不足による開催休止(2007は実施されました)"など、維持管理に関する話題が世間を騒がせました。

マスメディアでは、よく"古くなった"という点を取り上げがちです。しかし、日本には歴史的構造物や建造物が数多くあります。

本当に"古い"ことは悪いことなのでしょうか?また、古いから補修するのでしょうか?仮に、古いことが悪いというなら全て新築する必要があるということになってしまいますよね。


古いモノはどうやって現在まで生き残っているの?

モノは、自然のまま放置しておくと駄目になってしまいます。すなわち人間と同じように"息"をしているからです。よく、「住んでいる家と住んでいない家では住んでいない方が傷みやすい」ということを耳にします。なぜでしょう?

これが"息"です。道路橋でも使用していない(放置している)場合は清掃がおろそかになり、ゴミや土、水が溜まり、そこから腐食が始まることもあります。しかし、使用している場合は清掃を行い、いつも元気です。古いものは皆さんが使用してこそ生き残れるのです。

しかし、病気にもかかります。それは皆さんが使用したことによる"疲れ(過労)"です。過労はこまめに治療(補修)して元気にします。

このように、使用と治療のバランスをうまく使い分けることで、長く生き続けられるのです。


それでもいつかは壊れるのでしょう?

そうですね。自然界にとって永久のモノはなく、人間と同じように最後には"死"に至ります。でも、同じ人間でも寿命はみんな異なります。長いものもあれば短いものもあります。これは、先ほど言った"使用と治療のバランス"によって大きく変化する訳ですが、もうひとつ大きな要因があります。

それは、生活環境です。例えば、平均寿命で言えば"沖縄"や"長野"が高いのは有名ですね。長寿の要因は"食事(栄養のバランス)"によるものとよく言われています。この背景には気温(気候)があり、これが生活環境につながっています。

同様に構造物でも、生活環境によって大きな差が生じます。その代表的な例が"塩害環境"です。海に近い地域と内陸部では"錆"の生じやすさに大きな違いがあることは皆さんもご存じかと思います。

このように、生活環境の差異が構造物の寿命に大きな影響をもたらすため、"使用と治療のバランス"をコントロールすることは一層難しくなってきます。


塩害を受けていない部分
塩害を受けている部分同じ建設年度(1970年)の道路橋で
生活環境による寿命の違い

Ⅱ.構造物の点検と分析

まずは"健康診断"を

人間が定期的に健康診断を受けるのと同様に、モノも定期的に"健康状態"を把握することが大切です。健康診断、すなわち点検を行う方法には色々な技術があります。例えば道路橋では、点検用の車両や機器を用いて、目視を行ったり、写真を撮影したりして診断しています。

それ以外のモノでも各種の点検方法があります。

  • ◎鉄筋の調査‥‥‥コンクリート内部の鉄筋の腐食状態
  • ◎空洞化の調査‥‥舗装(路面下)の空洞化、植栽、電柱や街路灯の空洞化

このような技術を用いてモノの"健康診断"を行います。


次に"老化程度"との関係を調べよう

点検によって健康状態をチェックするのに加え、そのモノの老化程度を把握しておくことも重要です。それは、寿命に大きく影響するからです。例えば、お年寄りの風邪と若者の風邪ではその回復には違いがありますね。この"健康状態"と"老化程度"から次のような分析結果を得ることもできます。一般的には"劣化モデル"と呼ばれています。

次の図表1および図表2で示す劣化モデルは、"健康状態(劣化レベル)"と"経過年数"の関係から、補修までに至る年数を推定するものです。

図表1 一般的な劣化モデルの概念図 図表2 点検"健康状態の診断"により精度を高めた劣化モデル(当社研究事例)
【解説】

点検結果によるデータが蓄積されれば、建設後の1回目の補修に対して2回目に補修した際の健全度の回復状況の違いや補修後からの健康状態の変化が分析できます。

この事例では、建設後22年目に1回目の補修を行いますが、2回目の補修はその13年後に行わないと一定の健康状態が確保されないことを示しています。


点検用車両を用いた点検

点検用機器を用いた簡易的な点検
※特願2005-266360

Ⅲ.構造物の維持管理の優先度の評価

みんな疲れってしまったらどうするの?

人の場合は、だれを優先して治療するかなどということを決めることはできません。当然みんな大切ですから。ではモノだったら決められるのか。

ここで意地悪な質問をします。皆さんの家の屋根の上に、樹齢何千年という大木が今にも倒れそうにあるとします。みなさんは歴史的価値があるからといって自分の家を立ち退きますか?それとも思い切って伐採しますか?それともお金をかけて樹木を移設しますか?

現段階では、明確な答えはありませんが、質問のように伐採や移設をどのように決定すればよいのかについては、最も効果(住んでいる家の人や樹齢何千年という木から得られている効果)が高くなるような計画を立てることが重要になります。

すべてのモノが疲れてしまった場合も同じように効果の高いものから手をかけていくことが必要と考えます。


どうやって効果を求めるのか?

例えば、一度に目と歯の具合が悪くなったとき、あなたはどちらを先に治療しますか。私なら"目"にします。日常生活に支障が大きいのは歯よりも目だと感じるからです。

モノの場合も同じです。モノが壊れたときは、補修をしなければなりません。安全性に問題があり早急に補修が必要な場合は別ですが、多少の時間的余裕がある場合は限られた予算を有効に活用するために、費用便益比の高い箇所から補修を行っていくのが効率的です。

費用便益比とは、"事業費(工事費+将来の維持管理費)"と"便益(事業を行うことにより利用者がどれだけ得をするのかをお金に換算した値)"との関係を示したものです。


効果を平等に評価することはできるのか?

"目"と"歯"では"目"としました。しかし、こうした優先順位の付け方にも個人差があり、効果を公平に評価することは難しいのです。例えば、「"歯"の治療費の方が安いから」といったように、支出バランスを優先することも考えられます。

そのため、一定の指標を用いて費用対効果分析を行う場合もありますが、本当に公平に"どこから"を選択することができるようにする方法を構築することが課題となってきています。

例えば道路事業では、交通量の多い都市部では費用便益比が高くなり、交通量の少ない山間部では費用便益比が低くなります。このように経済的な尺度を当てはめることで、事業が有効なものであるかどうかを判断することが可能となります。一方で、交通量が少ない山間部でも、一本の道路ができることによって遠く離れた病院まで救急車が速く到達できるようになる、といった命に関わるような事柄などを経済的な尺度で表現することはまだまだ難しい面があります。

現在のところすべてを公平に評価できる仕組みはありませんが、少しずつそうした方法が考えられてきています。

図表3は、定性的な指標を貨幣換算し費用便益比として評価するために検討した一事例です。例えば"建設の振動、騒音における評価"は、工事で建設機械などを用いることで発生する大きな騒音や振動について、周辺住民が許容できる大きさや期間をお金に換算して評価する方法です。事業に必要となる費用や、工事中の不便や不快な状況になる経済的なマイナスと、事業がもたらすプラスの効果を計る指標の一つとなります。こうした新たな評価方法によって、少しでも事業を平等に評価できるよう日々研究に取り組んでいます。

分野 新たな評価指標の一例 手法
道路関連 建設の振動、騒音における評価 道路橋が老朽化した時に発生する騒音や振動を評価したもの コンジョイント分析 CVMAHP
工事の歩道幅員の影響評価 道路橋が老朽化によって大規模な工事を行うことで通行規制の影響を歩行者の立場で評価したもの CVMAHP
河川関連 生態系への影響 河川関連施設の老朽化によって生態系(生息動物)への影響を評価したもの コンジョイント分析
河川の流れへの影響 堆砂によって川の流れに不具合が生じた場合を評価したもの
図表3 維持管理に対する新たな評価指標の構築(当社研究事例)
【用語解説】
コンジョイント分析
ユーザーの深層心理を探るデータの解析手法
CVM
(仮想市場評価法)
アンケート調査等を通じて環境の価値を"金額"で評価する手法
AHP
(階層分析法、階層意志決定手法)
不確定な状況や多様な評価基準における意志決定手法
さらなる評価方法の加味(防災との連携)

もうひとつ評価として考慮すべきは、近年話題となっている"防災"についてです。

阪神淡路大震災や新潟県中越沖地震では多くの構造物が破損し、崩壊しました。また、直接的に破損した以外に他の影響によって破損や崩壊したものが数多く存在しました。

このため、個別のモノの"健康状態"を維持するだけでは不十分となってしまいます。例えば道路橋の場合、土石流の影響も調査し、土石流の危険性が高い地域の構造物を優先的に"健康状態"を保つことが重要とも考えられます。

また、私たちの身近なところでは「台風(暴風)時の植栽の倒木による周辺建物の破損」といったものもあります。

このように防災による影響評価と費用便益比を連動させることも重要なテーマであると考えます。


Ⅳ.アセットマネジメントの定義

さて、ここまでは、アセットマネジメントの定義として、社会インフラを資産として維持管理(運用)するということを示し、またその適用範囲として、モノの健康を保つために"健康診断"を行い、"どこから治療するか"について説明してきました。

ここでアセットマネジメントについて、社会インフラと金融の相互を比較すると、"健康診断"は"投資した資産の定期的な運用状況のチェックや社会経済の状況把握"に相当します。また"どこから治療するか"は、"投資先の決定"に相当し、さらに"費用便益比の高いものから補修する"は"最も利益が得られる投資をする"ということになります。

このため社会インフラのアセットマネジメントは、金融と同じように"点検"と"評価"がセットになって初めて達成される手法なのです。


最後に、資産を国民(人)と広げて解釈すれば、土木事業は国民の安全な生活の確保や向上を行うための"投資"であるとも言え、土木事業の全てがアセットマネジメントであるとも考えられます。すなわち、我々技術者は、単にモノを創ることを考えている訳ではなく、豊かで安全な国土創りを念頭に入れて日々の技術向上に努めているのです。


ページトップ