ある意味「夏の風物詩」ともなってしまった、お盆の帰省ラッシュ。渋滞に巻き込まれて時間に間に合わなかったり、運転中イライラしたり、いやな思いをしたことのある方は多いと思います。今月の特集では、高速道路や一般道路の混雑(=渋滞)に着目してお話しします。
なんで渋滞?やっぱり渋滞!

「帰省ラッシュ」だけではなく、「週末に家族旅行に行ったとき帰宅途中の高速道路で渋滞に巻き込まれた!」、「毎朝の通勤でいつも同じところが渋滞している…」なんてことはよく聞く話です。
高速道路でも一般道路でも、大量のクルマがいっせいに移動する時間帯があります。特に朝7時頃と夕方6時頃は、一日のうちでも交通量が突出しており、このときに、渋滞の起こる可能性が高くなっています。
では、どうして大量のクルマが集中移動すると、渋滞が発生してしまうのでしょうか。
高速道路ではいろいろなことが原因で渋滞が発生してしまいます。主な原因として「①料金所」、「②上り坂」、「③インターチェンジ等の分合流部」「④工事や事故」が考えられます。
■ 高速道路での渋滞原因その1:料金所
かつて高速道路の最大の渋滞箇所は「料金所」とも言われていました。高速道路の本線をめいっぱいクルマが走行している状況では、1車線あたり約2秒に1台の割合で料金所を通過することになります。これに対し、料金所の料金支払いには1台あたり約20秒を要します。そのため、本線1車線に対して料金所ブースは10箇所必要になりますが、たくさんの料金所を建設するためには広い土地が必要になり、現実的には困難でした。
今ではETC (※1) によって、ほとんどの料金所での渋滞は格段に減少しています。ある料金所では、通過するクルマは増えたのに、渋滞は半分になっているそうです。

Electronic Toll Collection System (ノンストップ自動料金支払いシステム)。車両に設置された車載器にETCカードを挿入し、有料道路の料金所で一旦停止することなく、設置されたアンテナとの無線通信により、自動的に料金支払いを行うシステム。
■ 高速道路での渋滞原因その2:道路構造(サグ部やトンネル部)
下り勾配から上り勾配に変わる区間(=サグ部)も渋滞を発生させる原因となりますが、このことを知っている人は少ないかもしれません。
こうした場所では、先頭のクルマが下り勾配から上り勾配に変化したことで知らず知らずのうちに速度低下してしまいます。その影響で後続のクルマとの車間距離が縮まり、後続のクルマは連鎖的にブレーキを踏んでしまいます。その結果、渋滞が発生してしまうのです。
こうした渋滞の場合、渋滞の先頭には料金所などの原因となるものが何も見当たらないので「なぜ渋滞になったのか」、「いつ渋滞を抜けたのか」に気づかない人もいるのではないのでしょうか。
同じような現象がトンネルでも生じています。トンネルの中に入るときに、ドライバーが「暗い!」「圧迫感がある!」といった心理を抱いて速度が低下してしまうクルマがあります。これによって後続のクルマが次々とブレーキを踏み、渋滞が起こってしまいます。


■ 高速道路での渋滞原因その3:インターチェンジ等の分合流部
インターチェンジ(IC)やジャンクション(JCT)から高速道路の本線に合流するクルマの影響でも渋滞が発生します。2車線と1車線の道路が合流したら2+1=3車線になればよいのですが、現実では2車線になっているところがほとんどです。そのため、本線を走行していたクルマが合流するクルマにあわせて速度を下げてしまうのです。追い越し車線へ車線変更するクルマも出てくるので、結果的に本線全体の流れが悪くなり、渋滞が発生してしまいます。

■ 高速道路での渋滞原因その4:工事や事故
例えば片側2車線の区間で道路工事を行った場合、通行可能な車線数が片側1車線に減少してしまい、クルマがスムーズに流れなくなり渋滞が起こります。1回の工事区間や工事時間をできるだけ短くしたり、通行量の少ない深夜に工事を行うといった対策がとられています。同様の理由で、交通事故が発生してしまうと渋滞が発生してしまいます。
一般道路ではどうでしょうか。一般道路では、「①交差点を原因とする渋滞」、「②工事、事故、路上駐車などを原因とする渋滞」に分けることができます。
■ 一般道路での渋滞原因その1:交差点
一般道での渋滞の多くは交差点を先頭にしています。それは交差点を通過しようとするクルマの台数に見合うだけの青信号の時間が確保されていないことが大きな原因の1つです。
もしクルマの通行量が多い道路と少ない道路の交差点であれば、前者の青信号の時間を長くし、後者の青信号の時間を短くすればよいです。通行量の多い大きな道路同士の交差点の場合では、両方向とも長い青時間が必要になるので立体交差点にすることも対策の1つとして考えられます。
また、交差点の右折時には、反対車線を直進するクルマがいるので、右折のクルマは交差点内で止まって右折できるまで待たなくてはいけません。こうした右折待ちのクルマが待機するための右折レーンがあるかないかも渋滞発生に大きく起因しています。

■ 一般道路での渋滞原因その2:工事・事故・路上駐車
高速道路と同じように、一般道路でも工事や交通事故が原因となって渋滞が起きます。この他には路上に駐車されたクルマや、駐車場への入庫待ちのクルマの存在によっても渋滞が発生してしまいます。
1台1台のクルマはそれぞれの意思で動いているので、もし何の渋滞対策も行わなければもっとたくさん渋滞が発生していると思われます。たくさんの渋滞対策が実際に身近で行われています。例えば、信号機の設置もその1つです。信号は安全を確保することはもちろん、たくさんのクルマを交差点を通過させる役割も持っているのです。既に述べてしまった対策もありますが、下表に整理してみます。
高速道路の主な渋滞対策 | 一般道路の主な渋滞対策 |
---|---|
◇サグ部やトンネル部における「速度低下」の警告と情報提供 ◇ETCの導入と普及 ◇渋滞情報の提供 ◇道路工事区間や工事時間の短縮など |
◇車線数の増加 ◇信号の設置、青時間などの調整 ◇交差点での右折レーン(左折レーン)の設置 ◇渋滞情報の提供 ◇道路工事区間や工事時間の短縮など |
■ 渋滞情報の提供
対策の1つに「渋滞情報の提供」とありますが、なぜ渋滞を把握でき、みなさんに情報として伝えることができるのでしょうか。
高速道路や一般道路には特殊なセンサーが設置されています。このセンサーによって、交通量や速度を検知し、渋滞かどうかを判断しています。これらセンサーは交通量の多い高速道路では300m~2km間隔に、交通量の少ない高速道路ではインターチェンジ間に1箇所に設置されています。一般道路では多くは主要な信号交差点の付近に設置されており、たくさんのセンサーが設置されています。
こうして収集された情報がすぐに処理され、リアルタイムな渋滞情報がカーナビやラジオ、テレビ、インターネット、携帯電話、路側情報板などを通じてみなさんに提供されています。
ちなみに、NEXCO東日本をはじめとする高速道路の管理者からは毎年、お盆や年末年始時の渋滞ピークが予測されていますが、これは過去にわたって収集した渋滞情報を分析して予測されています。
近年では、GPS(※2)やDSRC(※3)といった新技術が開発されており、近い将来にはもっと広範囲で正確な渋滞情報が提供されているでしょう。
Dedicated Short Range Communication (専用狭域通信)。ETC等に用いられる無線通信で、狭い範囲内で信頼性の高い通信が可能な方法。
Global Position System (衛星測位システム)。人工衛星から送られてくる電波を利用して地上の位置を三次元的に求める測量システム。
■ 渋滞を解消するということ
道路の渋滞を解消することは、単にみなさんの移動時間を短くするだけではなく、怪我や病気になったときや火事などのもしもの時に、救急車や消防車の緊急車両が一早く駆けつけられるようになります。環境面でも二酸化炭素などの排出ガスを減少させることができ、地球温暖化の抑制にも貢献することができます(※4)。
われわれ建設コンサルタントは、渋滞を解消させるために国土交通省や地方自治体といっしょに、渋滞の原因を突き止め、その対策を考え、実施し、実施後はその評価を行っています。一見ちょっとした対策でも大きな効果が発揮されることもあります。
ではみなさんができることはないのでしょうか。
乗用車の表定速度とCO2排出量の関係をみてみると、時速10km/hのときに比べて、時速40km/hのときにおける1kmあたりのCO2排出量は半分以下といわれています。
渋滞対策は、道路や交差点、信号を整備・改良するだけではありません。クルマを実際に運転するみなさんにしかできないことがあります。クルマに代わってバスや鉄道、自転車を利用したり、出発時間を遅らせたり、ルートを変更したり、何人かで相乗りしたり、自分の行動を調整することで、クルマの量は減って混雑は緩和されるのです。
みなさんもクルマで出かける前には渋滞情報を確認して、鉄道やバスを利用したり、クルマの通行量の多い道路や時間帯での移動はできるだけ避けるなど、ひとにやさしく地球にもやさしい道路の使い方を心がけてみてはいかがでしょうか。