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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

進化する技術 橋のいま、そしてこれから

  • 道路・鉄道

今月は、コンクリート橋の最新技術の一端についてご紹介するとともに、昨今の橋梁分野を含めた公共事業を取り巻く環境について考えてみたいと思います。是非最後までお付き合下さい。

3K

Written by shibuya tomohiro 渋谷智裕

その昔、建設業の現場は3K(ケン、ツイ、タナイ)などと呼ばれ、就職先として敬遠される時代がありました。皆さんも建設現場といえば、 土と埃にまみれた非常に男性的な環境を想像されるのではないでしょうか。また、こうしたことに加えて、鉄筋組み立てやコンクリート打設用の重機、 工事車両が発生させる機械の騒音・振動は、周辺環境へ相当の負荷を及ぼしてきました。こうした環境問題は、その施工規模にもよりますが、 数年間にわたることも珍しくありません。

また、団塊世代の引退や少子長寿化の加速により、橋梁建設の現場においても、ご多分に漏れず熟練職人さんの不足が発生してきています。

このような橋梁架設現場の諸問題を克服する切り札として、「プレキャスト・セグメント工法」という施工法が注目されはじめています。この工法は、 現場近くや工場で「セグメント」と呼ばれる橋を輪切りにした部材を製作し、トレーラーなどにより架設地点に運搬して組み立て、架設するもので、 この工法が本格的に適用される機会は、ここ数年、急速に増えています。

この工法は、施工時の環境悪化や職人不足といった問題を大きく改善しただけでなく、 従来架設現場で行っていた作業(鉄筋の組み立てやコンクリートの打設)自体を大幅に削減することで、工期短縮に果たす効果も絶大です。 今後橋梁の架設現場が3Kから脱却するためのキーとなる工法だと考えられます。

通常の施工方法では数年はかかるであろう延長 1km近くにも及ぶ高速道路橋の架設を わずか1年あまりで完成させたという最新事例は、 この工法の長所を発揮させた最たる例といえるでしょう。

実は、プレキャスト・セグメント工法は、プレストレスト・コンクリート橋の始祖と云われるフランス人技術者・フレシネーによって、 1940年代にはすでに実用化されていました。昔の技術者の偉大さには、尊敬と感動の念を禁じえません。


適材適所~「ひきょうど」について~


「ひきょうど」といっても人間の品格のハナシではありません。

橋の材料には主にコンクリートと鋼(ハガネ)があります。ここでは、同じ荷重を支えるための渡し板を両者で作り比べた場合を考えてみましょう。 この比較では鋼のほうが薄くかつ軽くて済むというイメージを浮かべていただけると思います。この例ような状態を指して、 鋼はコンクリートに比べて「比(ひ)強度(きょうど)」が高いというように使われる言葉です。

では、「それならば橋は全て鋼で作れば・・・」ということになるのでしょうか。 橋の構造部材の視点でコンクリートと鋼を比べた場合、下記特徴にもみられるように、 用途によってはコンクリートの方が鋼よりもメリットの大きいケースがあるのです。


コンクリート部材の特徴

    ~鋼部材に比べた長所~
  • ・剛性が高く、変形や振動が小さい。
  • ・サビなどの腐食対策等がほとんど不要で、維持管理性や耐久性に優れる。
  • ・安価。

    ~鋼部材に比べた短所~
  • ・重い。
  • ・施工が複雑で、現場作業が多くなる。

近年の橋梁形式においては、コンクリートと鋼の長所を引出し合う(短所を補い合う)「複合構造」の技術開発が盛んです。 これはいわば両部材を適材適所で用いて所要の性能を発揮させ、かつ施工コストや手間をかけずに橋を造るために開発されている技術です。 また、今までには無かった大規模な橋梁(長大橋)を実現することにも大きく貢献しています。

なお、これらの実現には、コンピューターのめざましい進化による解析技術向上も大きく寄与しています。 代表的な構造の例としては、波形鋼販ウェブ橋、鋼トラスウェブ橋、鋼・コンクリート複合橋などがあり、実際に多数が架橋されています。

さらに近年では、コンクリート自体の超高強度化、また、新素材としてアルミニウムやFRP、炭素繊維などを橋梁へ適用する技術も研究されており、 今後の開発が進むことで、超高強度コンクリートと新素材を適材適所に用いた複合構造などという革新的な形式も夢物語ではないのかもしれません。

中野第一橋CG
東北中央自動車 中野第一橋(CG)


波形鋼板ウェブ合成構造研究会
図:波形鋼板ウェブ橋の例

出典:波形鋼板ウェブ合成構造研究会
「波形鋼板ウェブPC橋設計マニュアル(案)」


中野第一橋写真
東北中央自動車 中野第一橋(写真)




高速道路無料化も...

日本では、新政権のマニフェストに盛り込まれた「高速道路の段階的無料化」の行方が注目され、ETC車載器の買い控え現象などが起きているようです。

ヨーロッパ先進国では、イギリスやドイツで高速道路の原則無料化を実施している例があります(フランスやイタリアなどは有料制を施行)。 むろん、完全無料化が望ましいという意見もあるでしょう。しかし、道路やその関連施設は、日々の交通や自然劣化により損傷し老朽化して行きますので、 安全で快適な道路を維持する費用はどうしても必要となってきます。そして、その額は高速道路だけでも、 なんと年間2000億円にもなるといわれます(橋梁、トンネル等も含む)。

また、橋梁を含めた日本の土木技術は、狭隘な国土や厳しい自然条件(地形や台風、地震災害など)に対応するために日々培われてきました。 これらは、先にご紹介したごく一部の橋梁技術も含め、間違いなく世界のトップクラスにあると断言できます。 それだけに、公共事業のパイを縮小するという最近の時流は長期的かつ広い視野で見た場合、この素晴らしい技術が衰退し、 失われて「過去の遺産」となってしまうことにつながるのではと危惧しています。

以上は、私が橋梁技術者であるから、その立場寄りの発言だというご意見もあることでしょう。 しかし、本稿をご覧くださった皆さんが、このような一つの側面もあることを理解し、 これらのことを少しでも考えて下さる時間を持っていただければ幸いです。





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