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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

自然環境再生-1 魚が住み良い川づくり

  • 河川・水工

サケの遡上、アユの流下-川は今、秋の産卵シーズンを迎えています。
最近の川づくりは、昔のような河道の直線化やコンクリート化に代表される洪水対策一辺倒ではなく、河川の自然環境や生態系にも配慮した取り組みがなされています。
そんな工夫のひとつが、川にすむ魚たちが自由に往来することを目指した「魚道」です。
「魚道」って何だ という方もぜひ覗いてみてください。

人と自然との係わり合い

共存共栄のために大切なこと

Written by shimada 嶋田智行
Written by kaneko 金子祐

みなさんは、「魚道」ってご存知でしょうか?

日本では水道水や農業用水・工業用水など私たちが生活するために必要な水のうち約90%を河川から取水しています。これらの水を安定的に取水するため、河川には(せき)やダム等の横断構造物がたくさん設置されています。また、ダムは洪水を防ぐためにも大きな役目を果たしています。
これらの構造物のおかげで私たちは安全で豊かな生活を得ることができますが、川に生息している魚などの生物にとっては、移動するために邪魔な存在です。

魚道とは?

「魚道」とは、河川に棲む生物にとって障害物となる横断構造物を自由に越えることができるために設置した人工的な迂回路のことです。

【取水堰と魚道】

魚道を行き来する魚たち

そもそも、魚道はアユやサケなどの水産資源を保護するために作られたのが始まりです。

例えば日本の代表的な川釣り対象魚で食用魚でもあるアユは、川で孵化した後、河口域や海に流下します。海で成長した幼魚は、えさ場を求めて上流に向けて川を遡上し、さらに成長した後、夏から秋にかけて産卵場である砂や小石の多い浅瀬を求めて川を流下します。このように一生の間に海や川の上下流を行き来するアユにとって、魚道は非常に重要なものになります。

また、川に棲む生き物は、アユのように大きな回遊をしない場合でも成長にともなって小規模の生活圏移動を行っています。

近年では生態系保全の観点から、魚道の設置にあたっては、小さな魚やカニやエビなどの水生生物も対象に含める傾向にあります。


魚道の種類

魚道にはさまざまなタイプが存在し、状況に応じて適切なタイプを選択することになります。


【プールタイプ魚道(階段式魚道)】

仕切りで魚が休息できるプール部分を確保し、プール部分が階段のように断続的に続くタイプで、日本でもっとも多く見られるタイプの魚道です。形は写真に示すように扇形やらせん型などさまざまです。

この形式にすると高度差を稼ぐことができるので、魚道の延長を短くすることが可能です。しかし落差などを適切に設計しないと魚にとって遡上しにくいものとなってしまいます。


【一般的な階段式魚道】

出典『技術者のための魚道ガイドライン』(安田陽一著、NPO法人北海道魚道研究会刊)
【扇形の魚道】
【らせん型、折り返し型】
落差が大きいため、一般的な階段式にすると魚道の延長が長くなってしまう箇所に設置するタイプ

出典『技術者のための魚道ガイドライン』(安田陽一著、NPO法人北海道魚道研究会刊)


【水路タイプ魚道】

プールタイプのような段階的な止水部分がなく、ある傾斜の水路が連続し、流れに連続性を持たせた魚道です。プールタイプのように落差を設けないため、魚がジャンプして遡上する必要がなく川底で主に生活している魚(底生魚と呼びます)にとっても移動がしやすいタイプです。

しかし一般的に水路タイプは傾斜を緩くする必要があり、延長が長くなります。またプールタイプのように休息場がないため、途中に休息場を設けなければならないことがあります。


【利根川河口堰の魚道】
【長良川河口堰の魚道】

★変り種【エレベーター式魚道】

かなり大胆な発想の魚道ですが、魚を管やプールなどの空間に幽閉し、その空間(水槽)そのものを移動させるタイプで、ダムなど落差がかなり大きな箇所に設置します。日本ではあまり一般的ではありませんが、欧米での事例が多いタイプです。

【エレベーター式のイメージ図】

魚道設置のポイント

言うまでもありませんが、川にはそれぞれの特性があり、100の川があれば、100の特徴があるといえます。魚道を設置するにあたって把握しなければいけない川の特徴は、水量や水位、水温や水質などの環境やその季節変化、対象構造物の落差の状況、取水や排水の状況など、非常にたくさんあります。これに対象とする魚の特性(移動の季節、移動方向、遊泳力、体の大きさなど)を組み合わせると魚道設置のために考えなければいけないことは無数にあります。

魚道を設置してみたもののうまく魚が利用してくれない魚道は意外とたくさんあるのです。

一つの川でうまくいったからと言って、その事例をそのまま採用してもうまくいくわけではなく、その川の、その場所での特性を踏まえた独自の創意工夫が必要となります。

これまで、魚道に施されてきた工夫をいくつかご紹介します。

【魚道評価のためのチェックポイントの例】
出典:『魚がのぼりやすい川づくりの手引き』(H17.3 国土交通省河川局)

魚道の色々な工夫

■越流部の形状

階段式魚道においては、越流部の断面形状が直角型の場合、下流側に剥離した流れ(魚道との間に空間が生じる流れ)が発生して魚の遡上が困難となってしまいます。そこで、断面形状を傾斜型やR型とするなどの剥離した流れを抑制する工夫を行います。

【魚道越流部の剥離】

■魚種に応じた様々な水の流れの創出

魚道内の水量や流れの勢いは魚の遡上に大きく影響を与えます。たとえば水量が多く、流れの勢いが強い場合、サケなどの大型の魚類には適していますが、底生魚や小魚は遡上することが困難です。

下の写真は、魚が自分で適した流路を選択して遡上することができるように、階段式魚道にいくつかの落差を設け、魚道に流れる水量や流れの勢いを多様に変化させた工夫になります。

【水量の調節機能がない魚道】
出典『技術者のための魚道ガイドライン』(安田陽一著、NPO法人北海道魚道研究会刊)
【魚種に応じた多様な流れを発生させるための工夫】

また、実際の水の流れが設計通りに流れるかどうか、写真のような模型を作って確認することもあります。


【模型による魚道内における流れの確認】

■呼び水

呼び水とは、その名の通り魚を呼び寄せるための流れのことを言います。魚道の入り口近くにあえて強い流れを発生させ、魚に川の上流を感知させて魚道へ誘導する工夫です。魚道が機能するためには、まず魚がその入り口付近によく集まり、かつ入り口を容易に見つけ出すことが重要です。特に遡上魚を対象としているわけですが、魚の本能や特性を利用した工夫といえます。


【筑後大堰の呼び水水路】
【筑後大堰の呼び水水路】

魚だけなくカニやエビなども河川の上下流を移動します。通常の魚道にカニ類用の対策が施されたものとしては、ロープを張った例があります。カニ類がこのロープを伝わって上下流に移動できるように配慮されています。


【ロープを伝っているカニたち】
出典:『筑後大堰』(独)水資源機構筑後大堰管理所(P.19)


おわりに

魚たちを中心とした水生生物は河川の多様な生態系の重要な位置を占めています。

魚たちがのぼりやすい川づくりを実現し、これらをとりまく生態系を再生していくことは、それぞれの河川が有していた本来の姿を取り戻すことにつながります。

ダムや堰などの構造物によって、魚たちの自由を妨げている河川が日本には今も数多くあります。魚道は失った河川の本来の機能を取り戻すための一つの手段です。

私たちは、河川管理者の方々とともに、魚道もふくめた水生生物がすみやすいより良い河川環境の再生・創出に取り組んでいます。


【yecの取り組み】


最上川水系最上川 男鹿川 利根川水系利根川 淀川水系淀川

川に行ったときにダムや堰を見かけたときは、魚道の存在を確認してみて下さい。魚道があれば、そこには、きっと設計者の様々な考えや工夫が施されているはずです。


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