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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

自然環境再生-2 コウノトリのいる川づくり

  • 河川・水工

自然再生という言葉を聞いたことはありますか?文字通り、かつて存在した自然の姿、かたちを、再生しようという取り組みのことです。山、川、海、などあらゆる場が自然再生の対象となりえますが、今月は"河川"を対象とした自然再生について紹介します。

自然の姿、かたちを求めて

自然再生って何ですか?

Written by MAMA SYUICHI 眞間修一

※1:川の営力...
特に洪水時に川の水が土砂を削り、河畔林や植物もなぎ倒し(侵食作用)、下流や海へ運び(運搬作用)、そこに堆積させ、河原や砂州、干潟を形成する(堆積作用)のこと。

はじめに、なぜ自然再生への取り組みが行われるようになったのでしょうか?大きな視点で言えば、自然が失われること、つまり環境の多様性が消失すること自体が、人類の活動にとって著しい損失を生むことが理解されてきたことにあります(非常に打算的な考え方ですが...)。

しかし、より身近な視点では、かつて見て、触れ、遊びの場でもあった身の周りの自然が失われ、日々の生活が味気ないものになりつつあることへの気づきもあげられます。私たちは、人口、資産の大半を河川の氾濫原に有し、川と経済、産業、文化には深い関わりがありました。従って河川の自然再生の目的には自然そのものの再生と同時に、河川と地域の関わりの再生も含まれることになります。

自然再生の特徴は、自然保護との対比で考えると分かりやすいかもしれません。自然保護は、現存する自然環境、生態系が、主として人間による社会経済活動などの影響により衰退・絶滅することから相応の手間を掛けて保護することと言えます。一方、自然再生は、かつて存在し失われた自然の姿を、人の手を加える量は最小として、自然の力を利用して目指す姿(目標)を維持継続していこうとするものです。この自然の力のことを、河川における自然再生では、「川の営力(えいりょく)※1 と呼ぶことがあります。

Ⅰ.自然再生の目的目標設定

それでは、自然再生を行う場合の目標は、どのように設定すれば良いのでしょうか?

まず、目標とする時代設定が必要となります。それは、まだ人類も生まれていない原初の自然か、または自然環境が大きく改変されるようになる石油を利用する前の自然でしょうか。日本で言えば、第二次世界大戦前の自然か、高度成長期前の自然か、など多くの選択肢があります。しかし、前述のことから、自然再生の特徴に合った目標設定の方法は、自ずと決まってきます。そうです、「自然再生のために加える人の手は最小限度とすること」が第一の必要条件となります。さらに、今後維持管理を進めていく上で地域との関わりが重要になることから、「地域に住まう人の記憶にある姿を対象とする」ことが第二の必要条件となります。

川づくりにおいて、自然の姿をいかに保つかも重要です。しかし、洪水はん濫の被害を受けやすい平野部を生活の拠点とする日本においては、洪水に対する安全度を高め、安心して暮らせる基盤を創り上げることが重視されてきました。従って、自然再生においても、図1に示すように、「川の自然度」を高めながら、同時に「洪水に対する安全度」も、少なくとも現在以上とすることが充分条件となってきます。

つまり、このような縛りもあるなかでの自然再生となることから、技術的、経済的側面も考慮しながら、実現可能な目標を設定することが特に重要となってくるわけです。


自然再生目標と自然度と安全度のバランス
【図1:自然再生目標と自然度と安全度のバランス】

Ⅱ.円山川での自然再生の取り組みは

円山川は、兵庫県の日本海側に注ぐ1級河川です。

多様な河川環境の形成に必要な要素を集約的に備えています。河口から中流部まで、海水と淡水が混ざり合う「汽水域」環境があり、菊屋島、ひのそ島、下鶴井と呼ばれる地区には湿地や干潟などの環境も点在し、多くの魚類、底生動物が生息しています。「汽水域」が終わるすぐ上流側に「れき河原」があり、アユなど産卵場も見られるようになります。沿川には「河畔林」が連続的に分布し、ケヤキ・ムクノキ・エノキも見られます。

このような多くの貴重な環境を有する円山川も、河川整備や沿川の水利用、農地利用の変化に伴い、ここ数十年で、環境は質・量ともに低下してきました。昭和46年のコウノトリの絶滅※2は、それを象徴する出来事でした。

このため、国土交通省、兵庫県、豊岡市が協力して、自然再生への取り組みが行われることとなりました。


【図2:円山川流域】
円山川は、兵庫県にあり日本海側を流れる1級河川です。

【写真1:円山川下流汽水域の河道】

円山川における自然再生の目標については、次のように設定されています。

(以下、「円山川自然再生計画」より引用)

現在の円山川水系に残されている特徴的な環境を保全するとともに、かつてみられた湿地環境や河川と水路・水田が連続した流れなどを再生・創出することなどにより、多様な自然環境の保全・再生を目指して、緊急治水対策と同時に自然再生を進めていきます。
円山川水系の自然再生に向けた目標
コウノトリと人が共生する環境の再生を目指して~エコロジカルネットワークの保全・再生・創出~

  • ♦特徴的な自然環境の保全・再生・創出
  • ♦湿地環境の再生・創出
  • ♦水生生物の生態を考慮した河川の連続性の確保
  • ♦人と河川との関わりの保全・再生・創出

円山川での自然再生の目標として、「コウノトリと人が共生する環境の再生」が挙げられています。これには二つの理由があります。一つは、国の特別天然記念物に指定されているコウノトリが、自然再生のシンボルとして万人にわかりやすいため。そしてもう一つは、コウノトリが生息できる環境※3を創り出すことが、自然再生で目指す環境(湿地再生、河川の連続性確保、人と河川の関わりの再生など)の指標となりうるためです。

以下、円山川で実施されている自然再生について具体的に紹介します。円山川の自然再生は、平成16年の台風23号で発生した洪水災害への治水対策と同時に実施されていることから、まだ完成には至っていません。あくまで、過渡状態ということでご覧ください。

※2:コウノトリの絶滅...
コウノトリの減少した理由は、乱獲、営巣に必要なマツの伐採、採餌場の水田の減少や農薬利用による餌生物の減少、などが挙げられます。円山川流域では、全国に比較すれば地域の生活により根付き、より長く姿を見ることができましたが、昭和46年に絶滅しました。その後、兵庫県豊岡市で野生復帰を目指した人工繁殖が進められ、現在は多くのコウノトリが放鳥され豊岡平野で生息しています。

※3:コウノトリが生息できる環境...
円山川流域における生態系ピラミッドの頂点の一つがコウノトリです。自然界には、生産、消費、分解の「食物連鎖」がありますが、円山川においては、コウノトリを頂点とした生態系ピラミッドも存在しました。しかし、コウノトリの餌生物となる魚類、昆虫類などの補食が困難となったこと、つまりピラミッドの構成要素が欠けたことが、コウノトリの減少につながる一つの大きな要素となりました。従って、コウノトリが自然環境で生息していけるということが、生態系ピラミッドが本来の姿を取り戻していることの照査となるわけです。


自然再生の事例1-湿地再生-

円山川における自然再生の柱の一つが、「湿地再生」です。湿地は、魚類、底生動物などの産卵、生育の場となるなど、河川を含めた水環境において多様な生態系を形成するための核となります。コウノトリが減少した理由の一つである魚類、両生類などの餌生物の減少に対して、湿地再生はその産卵、生育場を確保することにつながります。

手法としては、図3に示すように、川岸の一部を切り下げ、平常時でも水に浸る部分を創出します。その結果、浅い水域が形成されるとともに、堆積状況の進捗によって湿地性植物の生育を期待するものです。掘削工事の様子を写真2に示しますが、この切り下げた地は、現在写真3に示すように、コウノトリの採餌場として利用されています。


【図3:河岸の湿地再生】
出典:豊岡河川国道HP「円山川水系自然再生」より引用

【写真2:河岸湿地の工事】

【写真3:再生した河岸湿地を利用するコウノトリ】

自然再生の事例2-多様な流れを持つ川の再生-

出石川(円山川水系の支流で、兵庫県豊岡市を流れる1級河川)では、安全に洪水を流下させるために、当初は図4に示すように平坦に河道を拡幅掘削する計画を立てました。しかし自然再生の考えに即した計画では、安定的に成立する右岸側の砂州を掘削しても再度堆積することを予測し、掘削形状を工夫することが必要と判断しました。この結果、砂州はあえて一部存置することにし、これによって不足した河積分は左岸側に川幅を広げることで確保しました。このようにして淵と一体的に自然石からなる護岸を配置することで、小魚の住処となるような空隙を確保しました。自然石済みの護岸は、小動物も行き来することが可能となるため、背後地にある里山との連続性も改善することが可能となります。

完成後の様子を写真4に示しますが、背後地の里山と一体となった河川環境が形成されています。また、砂州に降りられるように階段護岸も整備されていることから、今後地域の子供たちの遊び場としての利用も期待しています。


【図4:出石川の河道掘削形状の工夫】

【写真4:出石川で砂州、淵、里山との連続性が再生された区間】

Ⅲ.最後に

余談ですが、円山川のすぐ西側5kmほどに竹野川という2級河川があります。その支川の須谷川には、住まう人が川に目を向けた、生活と一体となった川の姿があります(写真5参照)。川を利用することで最低限の手を入れ、その結果として気持ちの良い、思わずほっとするような環境を形成しています。私たちエンジニアは、このような環境があることを忘れずに、自然再生のあり方も考えていく必要があると考える次第です。


【写真5:竹野川(須谷川)】
住居の裏から川へすぐアクセスし、洗い場や、遊び場として利用されている。

参考資料:
「円山川水系自然再生計画書 平成17年11月 国土交通省近畿地方整備局・兵庫県」
「自然再生事業と緊急治水対策事業を踏まえた コウノトリが生育できる川づくりリバーフロント研究所報告 第17号 2006年9月」


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