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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

海面上昇 国が消える?

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『我が国は海に沈む』-キリバスのアノテ・トン大統領は、こう明言しました。今月は、地球温暖化により、まさに国家消滅の危機にある「南国の楽園 キリバス共和国」について考えてみたいと思います。

~地球温暖化による影響~

海に沈む国

Written by Nakata 中田泰輔
Written by Hasegawa 長谷川怜思

みなさんは『日本沈没』という映画やドラマをご覧になったことがありますか?

地殻変動によって国土全体があっという間に水没してしまうという、かなり衝撃的な映画です。では、現実にこのような水没の危機に瀕している国々があることをご存知でしょうか?その原因は、映画のような自然災害ではありません。大気中のCO2に代表される温室効果ガスの増加による地球規模の気候変動≒「温暖化」という人為的な要素が強いと言われています。

「海面上昇」と聞くと、温暖化により山岳氷河(例:ブータンのヒマラヤ氷河湖)や南極の氷が溶けて海面が上昇すると考えがちですが、実は水温上昇に伴う海水自体の膨張による影響の方が大きいと言われています。とりわけ、低緯度での膨張率が大きく、標高が低いサンゴ礁の島国では、海面上昇が国家の存亡に係わる深刻な問題となっています。

では、「地球温暖化がまずい!」と久しく叫ばれていながら、なかなか対策が進まないのはなぜでしょうか。

近年の急激な温暖化の要因として、経済活動に伴う温室効果ガスの増加が挙げられます。国別の二酸化炭素排出量は、先進国の方が多いという実状がある一方で、二酸化炭素排出量の増加率は途上国の方が大きく、長期的には途上国の排出量が先進国のそれを上回るとも言われています。また、こうした国際的な利害関係に加え、今すぐに温室効果ガス排出を削減しても、すぐには温暖化問題が解決されない、つまり速効性を得られないことも、要因の一つと考えられます。

海面上昇に限らず、気候変動に伴う地球規模での環境の激変は、地球上のあらゆる生命を脅かすため、世界中の国々が一致団結して本気で取り組まないと対処できない問題なのです。

キリバスの概要

太平洋の中心に位置するキリバス共和国は、洋上に散在した33の島々からなる総人口92,000人の小さな小さな島国です。佐渡島(約855km2)にも満たない国土面積(約811km2)ですが、世界第3位に相当する広大な排他的経済水域(EEZ)を有しています。住民の大半はミクロネシア人で、公用語はキリバス語と英語です。伝統的な食事は、パンの実やココナッツの果肉ですが、現在では輸入米やパンが主流となっています。食卓には様々な魚介類が並び、マグロを生食する点など日本と似ている部分もあります。また、各コミュニティにはマニアバと呼ばれる伝統的な集会所が設けられており、日没~深夜にかけて人々が集い音楽やダンスに興じる姿もキリバスの特徴です。

赤道から北方約200kmにあるキリバスの首都タラワ島には、国民のうち約44%が生活していますが、この島の最も標高の高い場所でも海抜約3mしかありません。

この南国の楽園を脅かしているのは、気候変動に伴う海面上昇です。IPCCの第4次報告では、今世紀末において海水位が最大59cm上昇すると予測されており、そこまで海面上昇が進行するとキリバスの国土のかなりの部分が水没してしまいます。

※IPCC
(Intergovernmental Panel on Climate Change)

気候変動に関する政府間パネル。人間の活動の拡大によって起こった大気の循環の変化が、気候・食糧・エネルギー・水資源などに重大な影響を及ぼしているという共通認識のもとに、各国政府が集まり国際的な取り組みを検討する会議のこと。

キリバスの様子 写真1:キリバスの風景
-マニアバとココヤシ-
キリバスの人々 写真2:キリバスの風景
-タラワ島のメインストリート-
キリバスの海 写真3:キリバスの風景
-ラグーンサイド...美しく輝く海岸-

政府機関等へのヒアリング

yecは、既に海面上昇の危機に晒(さら)されているキリバスの現状を把握するため、2009年の11月に約2週間の日程で、自主調査として政府機関や企業に対してのヒアリングとタラワ島の現地調査を行ってきました。

キリバス政府は、海面上昇への対応策として下記の3つのフェーズ(段階)を設定していますが、地球規模で進行するこの問題は自国の努力だけでは到底解決できないので、先進国を初めとする多くの国々との協力が必要と訴えています。

ヒアリングの際に私たちが最も驚いたことは、このまま海面上昇が進行し、国土を維持できない場合は移住する(国を捨てる)という決断も、政府関係者の間で真剣に考えられている点でした。

ヒアリングの様子
写真4:大統領府でのヒアリングの様子

【キリバスにおける海面上昇への対応策】

フェーズ1 短期的な対策
(水資源管理、現在被害を受けている海岸保全)
フェーズ2 中期的な対策
(キリバス全ての護岸整備、滑走路を貯水槽にするなどの水源の開発、フローティング・アイランド)
フェーズ3 長期的な対策
(島民の国外退去など)

現地視察

1.海岸浸食

タラワ島のラグーン側(内海側)は遠浅の地形で、干潮時には海岸に沿って広大な砂浜が出現します。このため港のない地域へは、船を下りて延々と砂浜を歩いて行かなければなりません。

一方、リーフ側(外海側)の自然海岸は、波浪によって海岸が削られている場所が所々に見られ、根元を洗堀されて倒れてしまったココヤシの木が目立ちます。

海岸沿いの護岸は空港や港湾施設、コーズウェイ(離島間を結ぶ埋め立て道路)などの主要なインフラ施設の周辺にみられますが、一部を除いては十分な補修がなされていない状況でした。

2.水利用状況

島全体の海抜が低く、四方八方を海に囲まれたキリバスでは、生きていくための水資源、とりわけ淡水資源の確保が最重要課題です。

生活水源には、浅めに掘込んだ井戸や、埋設された集水管によって地下水を集める井戸など、より塩分濃度の低い淡水を得ようと様々に工夫された井戸が利用されています。井戸には、個人所有のものや政府管理のものなど多種あります。

ところでみなさん、この島の方々が最も好んで飲む水源は何だと思いますか?...実は、最も塩分濃度の低い雨水なんです。キリバスは熱帯気候区に属しており、年間降水量は700~2,000mm/年と島々によってバラツキがあります。首都タラワにおける年平均気温は、27~28℃程と高いため、降水量と同等かそれを上回る2,000~2,500mm/年の蒸発(散)によって、淡水資源が慢性的に不足しています。このため、住民にとって重要な水源の一つである雨水は、季節や年によって得られる量が異なり、安定して利水できないという脆弱性を含んでいます。

また、一見すると安定して供給されるように感じる政府公共水源(地下水)ですが、首都があるタラワ島でさえ隣接する島との間に人が渡れる橋すら存在しない状況ですので、やや僻地で暮らしている住民には、政府公共水源のパイプラインなど行き届いていません。

このような背景から、離島ほど個人で掘った浅井戸の数が多く、利用率が高くなる傾向にあります。地下水位は地面から1~1.5m程度の付近にあり、容易にひも付きのカンカラで汲み上げることができます。しかし、井戸の周辺で家畜(見たところブタが多い)を飼っていたり、元来のサンゴ礁からなる地盤に起因して透水性が高いために、周辺からの汚濁負荷が容易に浸透してしまうというリスクもあります。

ただでさえ、海面上昇によって脆弱化(塩水化)しやすい条件にあるなかで、貴重な淡水資源の人為的な汚染が進行しているのです。

3.廃棄物

島内にある最終処分場の状況を視察してきました。廃棄物にはプラスチック類、紙ごみが多く、特に目についたものは紙おむつでした。処分場では水処理(排水、漏水防止処理)などは行われていないため、処分場内は浸水している状態です。

また、処分場周辺には2m程のフェンスが設置されていましたが、場内への入口は開けっ放しになっているため、ごみが周辺道路にまで飛散していました。加えてこのフェンスは所々破損していることから、処分場から出た大量のゴミが付近の海岸を覆い尽くしていました。これでは、海岸の自然環境が健全に保たれず、島を形成するサンゴの成長を阻害して、さらに海岸侵食を助長している可能性も否めません。

倒れるヤシの木 写真5:キリバスの風景
-リーフサイド...根本まで削られて倒れるヤシの木群-
コーズウェイ 写真6:キリバスの風景
-ニッポンコーズウェイ...キリバスの大動脈-

本当に必要な海外援助とは?

海面上昇によって危機に瀕した国の意外な真実。このような国にとって本当に必要な海外援助・技術支援とは何なのでしょう...?私たちの考える「便利」なものを送る、「便利」な生活のための手助けをすることが支援なのでしょうか?

キリバスでは、急速な食の欧米化により食料の輸入が増加し、自国内で処理できない廃棄物が美しい海岸にあふれていました。ココヤシやタロイモを主食とし、自然と共存していた昔ながらの生活や文化がすたれつつあるのを強く感じました。

このような現実に直面した私たちは、この課題を真剣に考えさせられました。確かに海面上昇そのものへの対策には世界中の人々の理解と協力が必要ですが、キリバスのように目前の危機に対応するには、先祖から続いてきた生活・文化を保全しつつ、生活基盤を改善することの方がより重要なのではないでしょうか。まだ漠然とした答えしか持ち得ていませんが、この島の現実を直視してきたからこそ、このことを念頭においた技術支援のあり方を考え、実践していくのが大切だと考えています。

キリバスの風景-島内の最終処分場の状況-
写真7:キリバスの風景
-島内の最終処分場の状況-

yecの地球温暖化問題に関する取り組み

最後に...海面上昇は諸外国のみの問題では無く、我が国日本でも低平地やゼロメートル地帯に資産が集中し、海面上昇に対する高潮リスク、地下水の塩水化に悩んでいる地域が多数存在します。弊社は、有明海での複合災害(気候変動に伴い巨大化した台風の接近による高潮と洪水による内水氾濫)などに取り組むなど、国内外にかかわらず人々が安心して暮らせる世界を護るため、海岸防護などの適応策から温室効果ガス排出の小さな社会とする緩和策も含め、温暖化対策の技術を高める努力を続けております。これからも、キリバスでの調査などの経験を活かし、国内外の地球温暖化問題に係る問題の解決に貢献していきたいと考えています。

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