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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

山津波 山地で起こるもう一つの津波災害

  • 河川・水工

東日本大震災を機に、海岸部の津波災害が大きくクローズアップされていますが、山地の多いわが国では、山間部で大規模地震や大雨により山津波という現象が発生し、多くの被害をもたらしてきました。今月は、普段は耳にすることが少ない山津波に関する話題をお届けします。

深層崩壊

山奥から押し寄せる津波

Written by sato toshiaki 佐藤敏明

東日本大震災で目にした津波のような現象は、山間部でも発生することがあります。大雨、地震、火山噴火などで大規模な山崩れ(深層崩壊)が発生すると、崩壊した大量の土砂がそのまま一気に下流へ流れたり、土砂が河川を一時的に塞ぎ、堰き止められた水や土砂が一気に下流へ流れる場合があり、あたかも津波のように下流を襲います。

熊野地区状況写真 国土交通省近畿地方整備局 【深層崩壊と河川の閉塞】
提供:国土交通省近畿地方整備局

歴史に残る山津波災害

地震にともなう山津波の例として、1847年5月の長野県の善光寺地震の犀川から信濃川にかけての山津波や1857年4月に起こった富山と新潟の県境付近を震源とする飛越地震による常願寺川の山津波があります。また、大雨にともなう例として、昭和28年7月の和歌山県有田川水害などがあります。

飛越地震はM7.0~7.1の大地震で、立山カルデラの大鳶(おおとんび)山と小鳶山で大崩壊が発生しました。これにより富山平野に流れ込む常願寺川の上流が土砂で堰き止められました。地震から2週間後に堰き止めていた土砂が崩壊し、たまっていた水とともに一気に流れ出ました。さらに飛越地震から2ヶ月後には別の堰き止めが決壊し、大洪水となって富山平野を襲いました。この2回の洪水で流失もしくは全壊した家屋は1000戸以上、富山藩が避難を指示していたにもかかわらず多くの死者を出したとされています。


立山大鳶山抜けの図
富山県立図書館所蔵資料
安政五年四月常願寺川筋大水害略図
安政五年四月常願寺川筋大水害略図
富山県立図書館所蔵資料

地形から読み取る深層崩壊危険個所

山津波は、深層崩壊(大規模な崩壊)によって引き起こされるため、災害を防ぐ上では深層崩壊の発生場所、大きさ、発生時期を予測することが重要です。

深層崩壊は、山間奥地で発生することが多く発生の頻度も少ないことから、予測の技術は十分には進んでいませんが、発生場所については過去に発生した深層崩壊と地形、地質との関係を統計的に結び付けて予測する手法が開発されています。国土交通省では、この手法による「深層崩壊の発生の恐れのある渓流抽出マニュアル(案)」を作成し、全国で順次危険個所の調査が進められています。

深層崩壊推定頻度マップ 国土交通省
平成22年8月発表資料より
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シュミレーションによる被害予想

山津波による災害を防ぐ上では、深層崩壊による土砂や洪水が流れ下る範囲を予測し、危険な場所に住む住民をいち早く避難させることが必要になります。そのための有効な技術として数値シミュレーションが活用されています。数値シミュレーションでは土砂や水の動きや量を計算するプログラムを作成し、複雑な動きをする山津波の流れを計算してどの範囲に流れが広がるかを具体的に予測することができます。

八千代エンジニヤリングでは現地の調査に基づき高度な技術力で深層崩壊の数値シミュレーションによる検討を数多く実施しています。

シミュレーション結果の一例
シミュレーション結果の一例

災害への備え

山津波のような大規模で発生頻度が低い災害は、災害時の詳細な記録が残っていない場合が多く、その実態を把握することは容易ではありません。また、山津波を引き起こす深層崩壊は地下深くの地質条件が関係するため、発生する場所や大きさを精度良く予測する技術を確立することは非常に難しいと言わざるを得ません。

このため、深層崩壊が発生することを前提に、人命や重要な社会資本への被害を最小限に抑える減災に取り組むことが重要です。自分たちの住む郷土の歴史から過去に山津波災害が発生しているのかを知ることや、河川が塞がれた際に上流に溜まった水を流す方法を考えておくこと、地域住民への情報提供や避難について訓練をしておくことなどが考えられます。

日本は、国土の大半を山地が占め地震や台風も多いことから山津波が起こりやすい自然を持っています。自然を侮ることなく、謙虚に普段から災害への備えを怠らないことが、この国に住む上で必要なことではないかと思います。

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