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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

海をまたぐ橋 美しい海と自然に寄り添う橋

  • 道路・鉄道

北長門国定公園、本州の最西端の北西、響灘(ひびきなだ)に浮かぶひとつの島があります。人口千人ほどのこの島、角島周辺は、対馬暖流の気候が育んだ豊かな自然に恵まれ、季節によってコバルトブルーやエメラルドグリーンの色彩を放ち、シェルサンドの白い砂浜との絶妙なコントラストを演出します。これほどの美しい景色は、この橋のデザイナーである私たちもかつて経験したことがありません。今月は、海をまたぐ橋についてお話します。  

美しい風景 

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この島は、1日7便の渡船が本土との行き来の頼りとなっていました。しかしこの美しい海は冬場になるとその姿が豹変し、日本海特有の荒波と強い季節風が吹き付け、渡航がままならないこともしばしばで、島に暮らす人々はほんとうに長い間、本土との繋がりを望んでいました。この島は、古くは万葉集、「角島(つのしま)の 瀬戸のわかめは 人の共 荒かりしかど 我れとは 和海藻(しまの女性は、他人には荒々しくてなびかなかったが私には優しく素直だった)」荒々しい海に浮かぶ小さな離島「角島」に生きる女性を名産のわかめに喩えられています。 img_f79-01.jpg

 

 

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人が営みを行う時、必ず何かしらの人工的な物を造ることになります。景観という言葉を、今まで聞かれたことがあるかと思いますが、田園・町並みといった視覚で捉えられる風景のことで、初めて見る異郷の地の特別な風景から日常の通勤・通学の風景も含めて、その人の印象や感情に訴えたり、慣れ親しみの中で安堵感を与えるようなものです。景観の印象は、その人の暮らしの情景によって異なってきます。古くさい町並みが良いと感じる一方で、整然とビルが立ち並ぶ都会的な町並みが良いと感じる人もいますので、なにが正しいかということを一義的に決めることはできません。

景観を考えるとき、「自然」が育む動植物、水の流れなどが与えてくれる魅力と人間の創造的行為によって造り出される形態・色彩・空間すなわち「デザイン」との調和、そして時の流れが造り出す季節、歴史、日常の親しみといった魅力の創造とこれを育むことが大事であると考えます。

この橋の景観をデザイナーは、こう考えました。 

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この橋を利用する人々にとっての自然環境を眺望できる開放的な空間の演出、主役はあくまで海や島などの自然景観であり、周辺の風景との調和と融合が大切である。この橋の描く姿は、角島と本土の山並みや鳩島(中間の無人島)より低く見え、海面により近く、時に波間に消えるかのように控えめで、あたかもリーフ(木の葉)のように柔和な存在感となる。 

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デザインコンセプトの実現には、様々な試行錯誤がありましたが、角島大橋の骨格となる架橋位置、ライン(橋の線形)の計画についてお話します。

中間に見える鳩島(無人島)は、地質学的にも大変珍しい柱状節理が鮮明に観察できるマグマの島で自然公園の第1種特別地域として保護されています。img_f79-04.jpg

中間の鳩島(無人島)

 

この小島を迂回しながら大きな曲線を入れて島を観察できるように、航空写真の白い実線のルート(平面線形)に架橋位置を決めました。これと合わせて、橋の高さの計画も本土から一気に海面近くに降ろし、低く鳩島を眺望しながらやがて航路の高さまで一気に引き上げてまた降ろすといった変化に富むウェーブ(波)の形状(縦断線形)を象徴しています。 

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架橋ルート計画

 

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この効果ですが、実際に橋を走って見るとまるで船上にいるかのような、海面を走っているような感覚になります。変化があって快適な走行が楽しめるように曲線に移る場所は、カーブの滑らかさに注意して、コンピューターグラフィクスや走行アニメを作成して検証しながらの計画でした。

また橋の柵も縦型を採用して走行車両からは、柵が視野からあたかも消えるように工夫し、視界が広く感じるよう配慮しています。 

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滑らかな曲線への変化部分

 

 

 

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親柱(おやばしら)とは橋を造る時、橋の名前を書いて橋の端部に設けるものです。コンクリート製もあれば鉄製もあります。角島大橋にはこの親柱がありません。親柱の代わりに、あえてモニュメントの形で公園の中に造りました。モニュメントの原案は、イメージ案を地域に公募して選考されたものです。これは角島小学校の生徒さんの作品「夕日と波」で、原作からデザインパースを経て、仕上げは手割りのモザイクタイルです。デザイナーも現場で左官職人の方と一緒になって、タイルを割って貼りました。 

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八千代エンジニヤリングがデザインした角島大橋が開通してもう11年になります。

最近、角島大橋を訪れる機会があって、本土側の公園で景色を眺めていた時、隣にご旅行中の老夫婦でしょうか、「ここの景色を見ていると心が洗われるようだねえ…」という会話が聞こえてくるのです。角島大橋を渡って角島と本土の間に定期路線バスが運行され、島民の足となる一方で、観光スポットとしてここを訪れる人々には異郷の地での感動を与え、この橋も随分自然に馴染んできたものだと感じました。モニュメントの原案を作った角島大橋の生徒さんも今ではもう立派な社会人になっているのでしょう。そして馴染み親しんだ角島大橋を渡っているのでしょう。 

 

 

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