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ダム

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100年前のダムとは

神戸市水道局が管理している布引五本松堰堤(通称「布引ダム」)というものがあります。この堰堤は、1900年に英国人技師バルトンが立案した水道布設計画をもとに拡張した計画で、佐野藤次郎が設計し建設された日本最古の重力式粗石コンクリート高堰堤です。

布引ダムは、下に示す写真のように表面は全面石張りで、上流側約90cmは止水コンクリート(セメント:細砂:砂利=1:2:4)、その下流側は粗石コンクリート(セメント:細砂:砂利=1:3:6)の配合のコンクリートの中に粗石を混入したものです。上流側にセメント量が多いコンクリートを打設する考え方は、現在の設計思想にも通じる考え方で、堤体の上流側で水を止める方法の一つです。

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補強に至った背景

布引ダムは、当初、約76万m3あった貯水池容量も過去2回の大水害などにより流入した土砂のため約40万m3にまで減少しましたが、100年の間、神戸市の貴重な自己水源としての役割を担ってきました。

この間、数回にわたる補修が行われてきましたが、甚大なる被害をもたらした阪神・淡路大震災では、堤体からの漏水が大幅(2~4倍)に増大したため、学識経験者からなる『第2次布引ダム調査研究会』を開催し、被害の状況を把握すると共に、早急に行うべき対策の検討をしました。その結果、堤体と基礎岩盤からの漏水流量が増加したと判断し、堤体内に亀裂の進行が考えられたため、堤体の一体化と遮水機能の改善を目的としたグラウト工事と基礎岩盤に関する亀裂を通る漏水防止のためのカーテングラウト工事を実施しています。

この時、現堤体が現行のダム設計基準を満たさず、将来堤体の耐震性強化が必要であるとの提言により、『第3次布引ダム調査研究会』を開催しております。研究会の結論および堤体補強方法の検討・実施設計の結果を踏まえて、補強工事を行うことになった次第です。

 

補強の概要

布引ダム粗石コンクリートダムの断面はスレンダーで、下流面勾配は2:3(1:0.667)です。建設当時は、地震の力や揚圧力の概念がなく、スレンダーな断面になったと推察されます。

平成7年の兵庫県南部地震においては、貯水位が低かったことや基礎地盤が強固であったこと、谷幅が狭く左右岸地山の支えによる3次元的な挙動も関与し、大きな損傷はなく堤体は保持されました。ただ、全く傷つかなかった訳ではなく、左岸の堤体の断面変化点では上流側に鉛直のひび割れが発見され、堤体自身を浸透した漏水が増加しました。このため、平成8年度に、前述の堤体内をグラウトする補修工事が実施されています。

布引ダムの堤体補強工事は、現行の設計基準に照らして、所定の安全性を確保するように上流側にフィレットという断面を設けて、全体の断面形状を大きくするものです。通常は、上流に貯水池があるため下流側に腹付けするケースが多いのですが、下流に水道施設があることと、布引ダムでは補強工事に併せて長年の堆砂を除去し、貯水容量の回復を図ったので、上流側の貯水を空にして、補強工事をすることができました。

フィレットの増築部は新しいコンクリートで旧堤との接合面は間知石であることから、接合面については、各種の試験とFEM解析も併用し、接合部の補強案も提案しました。

フィレット規模は現行基準で定められている2次元断面設計を基本としており、3次元解析や動的解析のような現行基準では定められていない設計法は用いずにオーソドックスな設計を行っています。検討の過程では増築フィレットと着岩面が例え分離したとしても現堤体の安全性を損なわないことも検証しています。

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設計に当たって実施した試験 

付着引張試験

現堤体とフィレットの打継目においては、間知石とフィレットの付着の状態が打継目の引張強度の重要な要因となることから、ダム堤体の原位置にて引張試験を実施しております。この引張試験では間知石を覆っている止水モルタルを除去する継目処理法を選定することも目的としていたため、継目処理はチッピング法とウォータージェット法の二工法を行い、付着引張強度を比較しました。

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新旧コンクリート面のせん断試験

付着引張試験から良好な結果が得られた表面処理方法(ウォータジェット法)をほどこした箇所で原位置せん断試験を行い、せん断強度を測定しました。

せん断試験は、布引ダム現堤体の間知石と増築フィレットの接合面のせん断強度及び特性を把握することを目的に実施したものです。試験方法は、基本的には岩盤のブロックせん断試験と同じ手法を用いています。試験ブロックは、前述した付着引張試験で大きな付着強度が得られ、試験が確実に行われたウォータージェットで間知石部を継目処理し、モルタルを塗り込み、ブロックコンクリートを打設して製作しました。

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このような試験を行い、補強部の新しいコンクリートと堤体部の古いコンクリートの付着面の強度を検討し、設計に生かしています。

粗石コンクリートダム

布引ダムと同様の粗石コンクリートダムは全国にいくつかあり、水源確保に役立っています。布引ダムの建設で得られた知見を生かし、その後のダムはきれいな仕上がりです。越流水の粗石沿い水脈の模様が見事なダムもあり、ダム写真集の一部に掲載されております。

布引ダムの粗石の内側のコンクリートも100年が経過していますが、サンプルにフェノールフタレイン液をかけるとしっかり赤紫色に変色し、中性化が及んでいないこともわかりました。人力で施工したにもかかわらず見事なものと感じました。

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