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野田 一弘 

はじめに

1.維持管理が抱える課題

我が国ではこれまでに多くの社会資本が整備されてきましたが、これらの老朽化が進行し、今後の維持管理費の増大が問題となっています。そのような背景の中、構造物等の健全度を一定の水準以上に保つ予防保全への転換を図ることが求められており、軽微な損傷段階での工事が増えてくることが予想されます。すなわち、日常的なこまめな維持管理が重要となり、日常点検、清掃、日常的な維持工事、事故対応補修などの小規模工事、いわば日常管理(Routine Maintenance)が中心となると考えられますが、これらの工事は日常的に行う必要がある一方で、工事規模が小さく、従来のような個別契約方法はなじまなくなってしまうと思われます。
発注者の立場から見れば、管理業務(点検・設計・積算・入札・契約・施工管理・検査検収)が飛躍的に増え、そうした事務に忙殺され公物管理者でなければ出来ない肝心の法律行為(意志決定等)に手が回らなくなってしまうことは容易に想像が出来ます。

2.官民連携による維持管理の改善

維持管理を効率化するためには、民間企業の有するノウハウを活かすこと(官民連携)が重要となってくると考えます。官民連携による維持管理の効率化は、その目的や対象施設によって見直しの方法が大きく異なるため、以下の3つの視点から改善方法を検討することが適切です。なお、性能規定や包括発注は民間事業者にもなじみがうすい方法であるため、導入にあたっては市場調査等を通じて目的や仕組みを正しく理解してもらうことも重要です。

①対象施設は何か(橋梁だけか,舗装だけか,道路全体か等)
②改善目的は何か(維持のみの合理化か,修繕や更新も含めるか,組織改革か等)
③上記①②を実現するためにどのような契約要素を用いるか


図1 道路の維持管理における改善の視点と官民連携手法

 


維持、修繕、更新の効率化を図り、コスト縮減や資産の健全度を維持する観点からは「性能規定型維持管理契約」が有効です。ここでは、一般的な道路を対象とした維持管理の改善として、性能規定型の維持管理契約手法の活用について説明します。

予防保全にふさわしい維持管理方法

1.性能規定型維持管理契約手法活用の考え方

民間ノウハウを活用した官民連携の具体的な仕組み作りにあたっては、以下のような視点から整理すべきです。

○予防保全による施設の長寿命化と管理水準の確保の両立
○維持管理市場を魅力ある産業化(担い手の育成)
○管理水準の安定的維持とコスト縮減

このようなねらいを実現するために、性能規定、品質保証の仕組みを有する維持・修繕業務を複数年・複数業務包括委託として活用することが有効です。その仕組みを概括すると、以下のようになります。

○きめ細かな点検や即応性のある体制で維持(日常管理)と修繕を実施することで、管理水準を安定的に維持し、施設や設備の予防保全を着実に進めることが出来ます。
○この時、維持(日常管理)と修繕を切れ目なく実施する仕組みとすることが重要です。
○こうしたきめ細かな対応は、即応性のある地元企業を中心とした企業群により行なわれることで高い実効性が確保されます。
○なお、危機管理上も早急な対応が必要な施設や設備を一気に更新する必要がある場合には、民間資金を活用したPFI方式の活用も有効です。財政的負担は更新完工後のサービス対価(長期債務負担)として平準化できる事に加え、更新した施設や設備の健全性について適切に受託者にリスク移転を図ることも出来ます。


図2 官民連携による維持管理のマネジメントサイクル
(「維持管理等の入札契約方式ガイドライン(案)~包括的な契約の考え方」平成27年3月 
(公社)土木学会 建設マネジメント委員会 維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会より引用)

 


2.性能規定型長期包括契約方式による維持管理

2-1 概要

性能規定型維持管理契約とは、道路管理者が道路等の最低限の機能を定義し、管理水準を達成するための作業の実施時期、設計方法、新技術あるいは新材料の採用等の具体的な作業の実施方法(仕様)は原則として受託者の責任で決定する契約手法です(図3)。
こうした取り組みを長期・包括的な契約で実施することによる効果は次のとおりです。

●民間の創意工夫による維持管理コストの削減
管理水準の達成方法について民間に創意工夫の余地が生まれます。例えば、将来の維持コストを低減させるための投資や、作業人員が複数業務を同時に実施するといったマルチタスク化による維持管理の効率化が可能となります。

●予防保全時代に対応した発注者の事務負担軽減
予防保全は、損傷が顕在化する前の軽微なうちに修繕を行う必要があるため、小規模でかつ発注回数も多くなり、道路管理者の業務(点検・設計・積算・入札・契約・施工管理・検査検収)が飛躍的に増加しますが、性能規定型維持管理契約では道路管理者は管理水準を監視することが主たる役割となるため、事務負担を軽減できます。

●対象路線に関する知見・管理ノウハウの継承
職員の異動や退職など維持管理を熟知した職員の減少に対し、長期契約に基づく民間とのパートナーシップにより管理ノウハウを維持・継承することが可能となります。


図3 従来型維持管理と性能規定型維持管理の対比

 


2-2 先進事例

欧米では10年以上前から長期・包括的な委託に基づく性能規定型維持管理契約が採用されてきましたが、我が国の場合は「性能規定」の取り組みが始められた段階です。


図 4 道路の更新や維持管理における民間活力活用の事例
(野田一弘他:維持管理調達の制度改善に向けた課題に関する調査,
土木学会大66回学術年次講演会(平成23年度),VI-316に加筆して作成)

 


2-3 性能規定型維持管理契約の事例

以下に、弊社が実際に提案・適用した性能規定型維持管理契約の事例をご紹介します。

・植栽管理の性能規定

民間ノウハウの活用し、コスト縮減を図るため、植栽管理業務の一部に性能規定を導入した事例を以下に示します。本線・ランプ・側道内については、建築限界、視認性の確保を性能要件として定め、除草の範囲・時期・実施方法等は事業者が自由に設定できることとしました。  
また、性能規定型の業務では、性能要件が達成されない場合(要件未達時)に、要件を満たす状態に性能を回復させるまでの時間制限を設けることが必要であり、時間制限は、これまでの管理実績等を参考に定めました。


表1 植栽管理業務の性能要件

 


・舗装修繕業務における品質保証の活用

指定された区間の舗装工事(原則として切削オーバーレイ)については、契約終了から3年間の品質を保証させる契約とし、工事終了から3年間の間に不具合が生じた場合は、施工者の費用と責任で修繕すること義務づけたもので、いわゆる粗雑工事の排除を期待したものです。
品質保証の性能要件は表 2に示す通りとしましたが、これはこれまでの実績を参考に決定したものであり、十分実施可能な水準を設定しました。


表2 品質保証の性能要件の一例

 


・保守義務

従来の個別発注の場合には、作業中に発見した別の業務に関する不具合(例えば、除草中に発見した路面のポットホールなど)については、業務間の連携もないため、見過ごされるケースもあったものと考えられます。
そこで、不具合を発見した場合には、即時に対応する「保守業務」を構築しました。保守業務は、作業員の専門性にかかわらず、不具合を発見次第、即対応(即時保守業務)または報告を義務づける(確認報告業務)ものであります。基本的に人力で対応できるものは、その場で対応することとし、重機等が必要なものや対応の要否判断が困難なものは、報告することとしました。


表3 保守業務の一例

 


・改善提案業務

維持管理業務において、現場の状況を一番に把握しているのは、日常の巡回や維持を行っている業務実施者です。そこで、これまでの業務を通じて得た経験や知見を活かし、改善すべき事項を提案してもらうことを業務として定めました。
受注者は、改善策等を提案することが業務であり、一方で増額の機会を得ることが出来るので、積極的な改善提案が期待されます。また、発注者は提案事項について、必要と判断した場合にのみ業務として発注すればよく、管理者の判断の機会を失いません(単価契約に含まれる工種や安価なものは随契)。こうした積極的な提案が行われる仕組みを通じて、危険や危機に対する事前対応が可能になり、維持管理の効率化・改善に大きく寄与していることが報告されています(例えば、照明の玉替えの際に照明器具取り付け部の腐食劣化を発見、ガードレール設置形態不適切箇所の報告など)。

3.橋梁の一括更新

3-1 概要

健全度が低下し資本的支出を要する管理資産が多数存在する状況となった場合、民間資金を活用して一括更新又は大規模修繕し、その後、性能規定型維持管理契約に基づき維持管理の効率化を図ることにより、従来の事後保全型の維持管理を予防保全型へ転換することが可能です。
同様の手法としては、米国ミズーリ州で州内全域の約800橋の架け替えと25年間の維持管理を民間事業者に長期・包括的に委託するとした計画があります。

 


3-2 更新+予防保全による維持管理

健全化並びに予防保全に基づく健全度維持の手順と適用手法は図 5のように整理できます。


図 5 民間の創意工夫を活かした事務事業マネジメント方法の概念図

 


官民連携による維持管理の改善に向けて

1.性能規定型維持管理契約手法の導入に向けて

維持管理手法の改善にあたっては、全ての改善要素を盛り込んだ最終形を目指して一気に進めるよりも、「できることから実施する」ことで少しずつでも改善を進めることが重要です。
現状、単年度分離発注で実施しているのであれば、まずは複数業務を包括化する、又は単年度契約を複数年化するといった取り組みからスタートすること等が考えられます。
特に、性能規定型維持管理契約では、対象資産の管理水準確保に対して民間事業者が責任を負うため、現状の施設の劣化状況や過去の修繕履歴等の情報を予め提示する必要がありますが、こうした情報は必ずしも道路管理者側で整備されているとは限りません。このような場合に、維持業務のみを包括契約や複数年契約として発注し、その業務に基づき対象資産の現状(数量や健全度等)を調査・整理する業務も含めて台帳等を更新することも有効です。そうして性能発注に必要なデータが整理・蓄積された段階で性能規定を導入するといった段階的な維持管理手法の改善も有効であると考えられます。


図6 維持管理の改善ステップ

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