自然のための科学根拠に基づく目標設定
(Science-Based Targets for Nature:SBTN)2021.03.25

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はじめに

SBT(Science-Based Targets)はこれまで気候変動分野で先行して取り組まれてきましたが、最近では企業の自然資本利用に領域を拡張した目標設定方法(Science-Based Targets for Nature:SBTN)の開発が進められています。

SBTNについては、2020年9月に初期ガイダンス「SCIENCE-BASED TARGETS for NATURE Initial Guidance for Business」が公表され、SBTNの概念と定義、設定に向けた段階的なプロセス、今後の予定等が紹介されました。今後は、2022年までに目標設定方法を開発し、2025年までに水、土地、生物多様性、海洋に関するSBTの幅広い採用を目指すとしています。

今回は、SBTNの概念と定義、設定に向けた段階的なプロセスを紹介します。

SBTとSBTNの違いは何か?

SBTとは科学根拠に基づく目標設定を意味します。これまでは、企業の中長期的な温室効果ガス削減目標が、パリ協定が求める水準(Well Below 2℃水準(1.5℃水準)に整合したものになるよう促す枠組みとして、CDP・UNGC・WRI・WWFの4つの機関によって共同で運営されていました。

SBTNは、企業の自然資本利用(水利用、土地利用、海洋利用、資源利用、気候変動、汚染、生物多様性)に対象を拡張し、持続可能な地球システムの実現を目指すものです。

この検討背景として、土地、淡水、海の領域では、土地/水域/海域利用の変化や資源開発、気候変動、汚染、外来生物等の「人間活動による自然への圧力」によって、種や生態系、自然と人の関わり等の「自然の状態」に負荷がかかり、私たちが豊かに生存し続けるための基盤となる地球環境が限界に達しつつあることが挙げられます。自然の状態の劣化は、私たちの生活や経済活動を下支えする生態系サービス※1を劣化させるとともに、自然災害や汚染等のリスクを増大させる可能性があるため、直接的な要因を回避・低減することが求められます。

企業は、SBTNに沿った取り組みを行うことで、複数の課題に対して包括的に行動でき、気候や自然のリスク(熱波や洪水、干ばつ等の気候変動への強靭性確保や水資源の保全、生物多様性保全等)の解決に貢献することが期待されています。また、SBTNでは生物多様性条約(UNCBD)や気候変動条約(UNFCCC)、土地劣化条約(UNCCD)、持続可能な開発のためのアジェンダ(SDGs)との整合性も考慮されています。


※1 生態系サービス
私たちの暮らしは食料や水の供給、気候の安定など、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みによって支えられています。これらの恵みは「生態系サービス」と呼ばれます(出典:環境省ウェブサイト、自然の恵みの価値を計る‐生物多様性と生態系サービスの経済的価値の評価‐)。

SBTNのハイレベルターゲットカテゴリ イメージ画像

図1. SBTNのハイレベルターゲットカテゴリ
出典:SCIENCE BASED TARGETS NETWORK GLOBAL COMMONS ALLIANCE,SCIENCE-BASED TARGETS for NATURE Initial Guidance for Business,2020

SBTNの段階的なアプローチ

SBTNの初期ガイダンスでは、企業がSBTNに取り組む段階的なアプローチとして、以下のの5つのステップを推奨しています。ここでは、多面的な環境課題と場所の優先順位付けを行った上で、リスク低減を行うことが求められています。


  1. ASSESS(評価)
  2. INTERPRET & PRIORITIZE(解釈と優先順位付け)
  3. MEASURE, SET&DISCLOSE(測定、目標設定、開示)
  4. ACT(行動)
  5. TRACK(追跡)


これまでは”個別”の環境課題について”直接操業(Direct Operation)”のリスク低減に取り組まれている企業が多かったのではないでしょうか。

SBTNでは、個々の活動だけで自然の損失に歯止めがかからないため、直接操業(Direct Operation)に加え、上流・下流を含むバリューチェーンを超えた行動が求められています。

「1.ASSESS」や「2.INTERPRET & PRIORITIZE」では、”活動場所”を踏まえた評価が重要な観点となります。これは、SBTNの対象となる生物多様性や水の利用可能性、土地の転換、森林破壊等の問題が、各地域の環境および社会側面と密接に関係するためです。例えば、水の分野では、地域の気象条件や地形、地質、水に係る制度の整備状況、注目度の高まり等によって、リスクの種類(水資源不足、水質汚染、洪水等)やその程度が異なるため、地域の状態に応じたアクションが求められます。

次に、「3.MEASURE, SET&DISCLOSE」では、優先順位の高い課題と場所に対して、地球の限界や社会的目標に沿う企業目標を設定します。現在いくつかの環境課題でガイダンスが未整備の状況ですが、以下の課題では既にSBTNと方向性の一致するガイダンスが公表されているため、参考にすることができます。


  • 気候変動(Science Based Targets initiative)
  • 土地利用変化(Accountability Framework Initiative)
  • 水資源(Context-Based Water Targets)
  • 農地の生物多様性(regenerative agricultural practices in line with the European Commission)

「5-Step Process of SBTs for Nature」の概要 イメージ画像

図2. 「5-Step Process of SBTs for Nature」の概要
出典:SCIENCE BASED TARGETS NETWORK GLOBAL COMMONS ALLIANCE,SCIENCE-BASED TARGETS for NATURE Initial Guidance for Business,2020 をもとに弊社作成

企業がSBTNに沿った取り組みを行うメリット

企業がSBTNに沿った取り組みを行うメリットとして、以下の項目が挙げられています。


  • 規制やポリシー変更に先んじた行動ができる
  • ステークホルダー(投資家、親会社等)の信頼向上
  • 中長期的な収益性の改善 等

今、企業がすべきこととは

水の分野では、既にCDP水セキュリティでバリューチェーンのリスク評価やそのリスクへの対応等の質問が設けられていますが、今後SBTNやTNFD等のガイダンス公表によって、バリューチェーン全体のリスク管理に対する機関投資家等の要請がさらに強まることが想定されます。

しかし、企業がバリューチェーン全体を対象に情報収集やリスク評価、目標設定、アクション等に取り組む際には、関係者が多くデータ量が膨大となるため、多くの時間や作業負担を要する可能性があります。さらに、バリューチェーンのパートナーとエンゲージメントを行うまでの関係構築に時間がかかる可能性もあり、評価やリスク低減をしたいと思ったタイミングですぐにできるとは限りません。

以上より、SBTNの初期ガイダンスでは、各企業は2022年のSBTNの方法論の公表まで待って行動するのではなく、以下に挙げられるような「今できること」から対応を進めることが重要だとしています。


  • バリューチェーンの情報収集(活動場所や影響・依存関係の把握)
  •     〃    ホットスポット評価及び優先順位付け
  • ガイダンスのある分野における目標設定(気候変動、土地、水 等) 等


水の分野では「Context-Based Water Targets」はSBTNの方向性と一致すると紹介されているため、マテリアリティが高い課題が何かを認識したうえでの対応であれば手戻りにはならないと考えられます。

サプライチェーンの水リスク管理に取り組まれていない企業の方は、是非これを機会に、情報収集や検討をスタートしてみてはいかがでしょうか。

(参考)SBTN Corporate Engagement Programへの参加

SBTNでは、現在多数のパートナー(企業等)との共同でSBTNの方法論を構築するために「SBTN Corporate Engagement Program」のメンバー募集を行っています。(参考:SBTN HP「Join the SBTN Corporate Engagement Program」)。

弊社は本プログラムに参加しています。活動を通じて最新情報を把握するだけでなく、これまでの知見を活かしたSBTN開発への貢献を目指していきます。

今後もインサイト等を通じて最新情報をご共有しながら、皆様の自然資本利用に係る目標設定をご支援させていただけたらと考えております。

まとめ

Science-Based Targets for Natureで推奨する重要な観点を以下に示します。


  • バリューチェーン全体で事業活動による自然への影響/依存関係を多面的に把握すること
  • 活動場所によるリスクの種類や程度を把握すること
  • 上記を踏まえ、対応すべき課題と場所の優先順位付けを行った上で、科学根拠に基づく目標設定や対策実施を行うこと

執筆者:山田 晃史

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