メールマガジン第24号(Context-basedアプローチによる水目標の設定事例 ほか)

【水リスクラボ】"Context-basedアプローチによる水目標の設定事例 ほか"メールマガジン第24号(2020年10月8日)


---▼目次-----
【1】Context-basedアプローチによる水目標の設定事例
【2】今求められる「Collective Action」
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【1】Context-basedアプローチによる水目標の設定事例

水は、地域的な偏在性をもつ資源であるため、水リスクへの対応もローカルな視点が求められています。
企業の水関連目標の設定方法についても、よりローカルなアプローチであるContextual Targetsの導入がWWFからも推奨されており、
ガイドである「Setting Site Water Targets Informed By Catchment Context: A Guide For Companies」も公表されています。
https://wwf.panda.org/our_work/our_focus/freshwater_practice/water_management/science_targets_water/
https://ceowatermandate.org/site-targets-guide/

このガイドの中では以下の3ステップにより水関連目標を設定することが推奨されています。

この考え方をいち早く導入し、WRIとのパートナーシップのもと、水関連目標を設定したのが今回ご紹介するCargill社です。
Cargill社は、穀物メジャーですが、精肉や金融商品まで手がける企業として有名です。
本メルマガでは、Cargillの水関連目標の設定方法について解説します。
なお、以下の目標値は、買収などによる事業の変化があることが想定されるため、定期的に再評価されるとされています。

Water Resources(Cargill社)
https://www.cargill.com/sustainability/priorities/water-resources?sf236127421=1


1.2030年目標
Cargill社が2030年までの水目標として設定した内容が以下となります。

優先流域の6,000億リットルの水を回復します。(サプライチェーン)
優先流域で500万kgの水質汚染物質を削減します。(サプライチェーン)
81 の優先施設でウォータースチュワードシッププログラムを実施します。(自社の操業)
25の優先流域で安全な飲料水へのアクセスを改善します。(サプライチェーン)

2.Contextual Targetsの設定方法
上記の目標設定は以下の3STEPで設定されました。
STEP1. 対象とするバリューチェーンセクションと水関連課題に優先順位を付ける
STEP2. 優先度の高い流域とその水関連課題の特定
STEP3. 水目標設定(Context-Based Targets)


STEP1. 対象とするバリューチェーンセクションと水関連課題に優先順位を付ける
STEP1-1. 対象とするバリューチェーンセクションの設定
まず、Cargill社は、自社の調達、加工、製品の使用の水使用を分析しました。その結果、以下に焦点をあてることが水課題への貢献が高いと判断しています。
一つ目は、世界的に見て水使用量の約70%を農業で使用していることから「農業(サプライチェーン)」を、
加えて、自社の水関連リスクの軽減と持続可能な水管理を実現するために「自社の操業」を選択しています。

■対象とするバリューチェーンセクション
・農業(サプライチェーン)
・自社の操業

STEP1-2. 対象とする水関連課題の設定
取り組むべき共通の水課題として、以下を特定しています。これらを設定した理由として、以下の課題解決が人や農業に取って不可欠であるからとしています。
なお、共通の水課題とは、自社と同じ流域内の利害関係者が共有する水関連課題や脅威です。

- 水の利用可能性:水の枯渇、不十分なインフラや水の競争
- 水質:農業排水からの過剰な栄養塩の流出と産業排水からの汚染物質
- 水へのアクセス:安全な飲料水と衛生設備へのアクセス

STEP2. 優先度の高い流域とその水関連課題の特定
STEP2-1. データ収集
Cargill社は、対象とするバリューチェーンセクションを「農業」と「自社の操業」としているため、これらに関する以下のデータを収集しています。
a.作物の調達先と数量のデータ(農業):世界のバリューチェーンの中で原料となる作物の調達先と、調達先別の作物の量に関するデータ
b.自社操業の水使用量や影響の把握(自社の操業):自社拠点の水源別の取排水量のバランスと自然水域への排水負荷量のデータ

STEP2-2. 水課題の深刻度と優先度を決定するためのデータセットとしきい値の設定
深刻な共通の水課題を抱える流域を分類するために、共通の水課題ごとに以下のしきい値を設定しました。
a.水の利用可能性(農業:サプライチェーン):Water depletionが25%以上の流域(年間の総消費量が水資源量の25%以上を占める流域)
b.水質(農業:サプライチェーン):栄養塩の総負荷量が全流域の少なくとも75%を超えている流域
c.水へのアクセス(農業:サプライチェーン):Unimproved/no drinking waterが5%以上(改善されていない飲料水の人口が5%以上の流域)
d.水の利用可能性(自社の操業):Water stressが40%以上(年間の総取水量が水資源量の40%以上を占める流域)

STEP2-3. Cargill社の流域への負荷(associated footprint)の設定
各共通の水課題に対してCargill社の流域への負荷(associated footprint)を以下のように定量化しています。

a.水の利用可能性(農業:サプライチェーン):灌漑作物の水消費量(ブルーウォーターフットプリント)
b.水質(農業:サプライチェーン):ステップ2の栄養塩の総負荷量に関するデータ、作物の生産量と面積に関するグローバルな地理空間データ、およびCargill社の情報リソースを用いて、各優先流域における栄養塩負荷のCargillの割合を算出
c.水の利用可能性(自社の操業):水消費量(CDPの定義に基づき、取水源から取水に対して、同水源に戻されていない水量としている)
d.水質(自社の操業):排水処理後の負荷量(内部処理と外部処理の両方を含む)、負荷量として、流域条件とCargillの操業に基づき、他の重要な懸念物質が特定されない限り、窒素負荷が使用されている

STEP2-4. 優先度の高い流域の特定
各共通の水課題について、水課題の深刻度とCargill社の流域への負荷(associated footprint)の両方を反映した優先流域を特定している。

STEP3. 水目標設定(Context-Based Targets)
STEP3-1. 目標の種類の設定
Cargillは、自社の操業に関する目標として、プロセス型の目標を設定しました。
また、サプライチェーン全体での水の利用可能性と水質については、定量的な目標を設定し、サプライチェーンの安全な飲料水へのアクセスについてはプロセス型の目標を設定しています。
なお、自社操業の目標であるウォータースチュワードシッププログラムは、水の認証であるAWSの取得を目指すことが含まれているとのことです。

STEP3-2. 共通の水課題に対する望ましい状態を特定
共通の水課題に対する望ましい状態については、、「STEP2-5. 優先度の高い流域の特定」を決定するために使用されたデータセットとしきい値を使用して決定されました。

STEP3-3. 現在の状態と望ましい状態に基づいてギャップを計算
ギャップ(% desired change) = 現在の状態(current state) − 望ましい状態(desired state)

STEP3-4. 各流域の共通の水課題ごとに定量目標を算出
流域目標(watershed target) = ギャップ(% desired change) * Cargillの流域への負荷(associated footprint)

STEP3-5. 企業の定量的な全社目標を算出
各共通の水課題の流域目標の合計を、Cargill社の全社目標として設定

多くの企業様から水リスクマネジメントを進める上で、複数あるリスクの中で何に取組んでいいのか分からないというお悩みを相談されます。
そのような場合、弊社からも上記のように、まずはバリューチェーンを含めた自社事業にとっての水との関りを分析し、着目するバリューチェーンと水リスクの種類を定めたうえで、目標設定とアクションに移していくことをご提案させていただいています。
これにより効果的で効率的なマネジメントに繋げることができます。



【2】今求められる「Collective Action」

水資源の枯渇や水質悪化等の水問題は、地域全体が共有する課題であり、1つの企業、1つの工場の単独の行動だけでは、地域全体の根本的な解決が難しいケースが多く見られます。

持続可能な水利用のためには、企業単独のアクションだけでなく、地域のステークホルダーと課題や目標を共有してCollective Action(集団行動)を行うことにより本質的な水課題の解決を図ることが求められます。
(水分野の世界最大の年次会議であるWorld Water Week 2019では、企業と自治体、企業と市民、企業と企業による個別のCollaborative Actionのみならず、流域を共有する様々なプレイヤーが共同で取り組むCollective Actionの必要性が強く訴えられていました。)

皆さんはCollective Action(集団行動)ときいて、どのようなステークホルダーとのつながり方を思い浮かべますか?

CEO Water Mandateのガイドでは、Collective Actionのエンゲージメントレベルとして以下の4種類があることを紹介しています。
・情報の共有(有益な集団行動)
・助言を求める(協議的集団行動)
・共通の目的を追求する(共同の集団行動)
・意思決定とリソースの統合(統合的集団行動)

Understanding Water-Related Collective Action(CEO Water Mandate、2013年9月)
https://ceowatermandate.org/collectiveaction/understanding/

私たちは、Collective Actionが水課題を解決する有効なアプローチの一つと捉えています。まずは、自社や工場の目指す姿をイメージし、その未来に向かって“できることから“かつ“計画的に“行動することが重要と考えます。

Collective Actionと聞くと少しハードルが高いと感じる方も多いかもしれませんが、地域の水に関する取り組みのなかで、流域関係者とリスクを共有したいと考えている企業担当者や、企業と連携を図りたいと考えている行政担当者は多いと感じています。
Collective Actionの第一歩として、同じ水資源を共有する流域関係者とのリスク共有などから始めてはいかがでしょうか。

Water Action Hubでは、全世界の水に関する企業アクションがマッピングされており、その詳細には問い合せ先の担当者も掲載されています。
みなさんの活動する地域で他企業とコラボレーションする際のきっかけになるかもしれませんね!

Water Action Hub(CEO Water Mandate)
https://wateractionhub.org/