9/15(水)開催「水リスクマネジメントの業界動向」

2021年9月15日(水)にオンラインセミナー「水リスクマネジメントの業界動向」を開催いたしました。

開催概要

  • テーマ :水リスクマネジメントの業界動向
  • 開催日時:2021年9月15日(木)11:00~11:50
  • 開催方法:オンライン(Zoom)
  • 主催  :八千代エンジニヤリング株式会社 水リスクラボ
  • 参加費 :無料
  • 参加人数:86名

近年、企業の水リスクマネジメントの重要性が注目され、様々な企業が水リスクマネジメントに取り組み始めています。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)やESG投資、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)など企業への要求の拡大によって、環境を含む社会課題に対する企業の向き合い方も変化しています。また、気候変動は、温暖化や災害の激甚化等の側面で顕在化しています。気候変動の「緩和」の取組を進めるだけでなく、既に現れているこういった影響や今後、中長期的に避けることのできない影響への「適応」を計画的に進めることが必要です。
水の観点で見ると、水資源の持続可能性をリスクとして捉え、どのように対応するのかを求められるとともに、サステナビリティ投資の観点から適切に自社のリスクや方針、取組を発信しなければ、ステークホルダーから評価されない時代になったとも言えそうです。水リスクを含む環境リスクは、時間をかけて顕在化します。そのため、中長期的に戦略を立てることが必要とされていますが、環境課題には短期的な投資効果が把握しにくく、対応が遅れがちになることが課題として挙げられます。

当社はこれまで様々な業界の企業様の水リスク調査、マネジメントのご支援をさせていただいてまいりました。水は生産活動に必要不可欠な資源ではありつつも、業界ごとに水リスクと事業の関連性が異なることから取り組み内容も業界ごとに傾向があります。
本セミナーでは、当社独自の支援実績より、代表的な業界の水に対する取り組みの傾向や実際の企業の取り組み事例を紹介するとともに、今後潮流となりえる水のSBT(Science Based Targets)などの動向についても概要をご紹介しました。

質疑応答ではたくさんの質問をお寄せいただきました。文末にQ&Aを掲載いたしますので、参考になれば幸いです。

質疑応答

最新のガイダンスに関する詳しい情報はどのように把握すればよろしいでしょうか。
最新のガイダンスは各イニシアチブからそれぞれ公表されることが多いです。水リスクラボHPでは最新のガイダンスの紹介を行っています。ぜひご覧ください。
海水取水のリスクが小さいという意味ではないことを確認させていただければと思います。業界別取組の違いでは淡水取水量が記載されていましたが、海水取水量のデータが取得できなかったためでしょうか。
また、海水取水量が多いことのリスクは、どのようなものがあるでしょうか。
今回は水リスクラボの支援実績に基づき講演させていただきました。私たちが今まで支援させていただいた企業では、淡水を取水して操業する企業が多く、淡水取水量に着目してお話しいたしました。
海水を使用するということは、施設が沿岸部にあることが想定され、高潮等の水害リスクや、排水が直接海に流れでることによる水質汚染のリスクなどが考えられます。
水のマテリアリティが低いものの、製造業界以外でも今後の動向として水リスク対応についても開示する流れは避けられないと考えております。製造業以外の企業の中で、水リスクへの調査・対応が進んでいる企業例などはありますでしょうか。
製造業が一番水リスクへの対応が進んでいるといえます。今後製造業以外での取り組みを進める中で、最も進んでいる製造業の取り組みを真似することができます。製造業以外では、環境に対する配慮について厳しい目を向けられることの多い観光業でも水リスクマネジメントへの取り組みを行っている企業が多いです。
SBT for Water は2022年までに公開されるとのことですが、2022年の早い時期なのか、2022年末になるのかといった、もう少し具体的な情報をお持ちではないでしょうか。
水に関しては2021年末にドラフトが公開される予定です。全体としては2022年中に公開予定です。
重要と述べられた実態把握の具体的な方法を教えて頂けないでしょうか。
自分たちの企業の拠点などでどういった水リスクがあるのかをリストアップします。水害、取水量の多い少ない、水質に問題がないか、地域の課題を把握する際には、ハザードマップ、水ビジョンという、流域の水の課題、取り組みの関して示されている資料を使用します。
実態把握の中では流域という概念が非常に重要で、工場でどのような水源を使用しているのかをきっちりと把握することが重要です。次に水がどこから集まっているのかの理解、排水が下流の方にどういった影響を与えるかといった周辺の地域の方の情報まで調査をしていく必要があります。
業界によって特に重要な側面は変わり、原料として使っている所は、上流の取水の量という観点、化学物質を使用している所は排水に着目して調査をするなどです。地域によって水の特性は変わるので、一般的なツールで概略的な評価をしたうえで、次にもう少しサイトに着目をして水の利用状況、すでに顕在化している課題を抽出していくことができます。
取組みを進めていくと、他業界の企業や地方政府、研究者と取組みを連携して流域全体で進めることとなっていると思います。
そのような取り組みは、単一企業では進めにくいように思うのですが、どのように流域全体のステークホルダーが連携・調整しているのでしょうか。
確かに、単一企業では非常に難しい部分があります。例として流域で同業他社と連携し、位置している自治体に働き掛けて連携して取り組みを進めていく、自治体に取り組みを開示していくという方法もあります。
もう一つの重要な観点としては、日本においては水を流域で管理しようとすると、行政が中心になっていることです。実際に地域の水のビジョンや施策も行政が中心になっています。ただし、水循環基本法があり、企業や行政だけではなく、水資源は皆さんの共有の資源であり、行政だけではなく、企業や市民の方々にも協力してもらうということもできます。
行政も予算やリソースがひっ迫しているので、今後は企業の皆さんに頼るしかないというのが実態です。我々としては、最終的なSDGSの観点からみても企業や行政単独ではなく、コレクティブアクションが必要になると考えています。
バリューチェーン全体での活動はいくつかの段階があるかと思いますが、自社拠点、水源の流域内、サプライチェーン全体など、対象領域の拡大ステップとその段階におけるステークホルダーとの連携についての考え方をお聞かせください。
まずバリューチェーン全体を考えたときに、水リスクが自社の操業にどの程度影響するのか、地域においてどのくらい高いリスクにあるのかを評価して優先順位付けを行うことが重要です。そして優先的に取り組まないといけないと評価されたものに対して先に取り組んでいくことが望ましいです。
自社拠点についてはある程度本社や担当部署の方が水に関する情報をお持ちかと思われます。サプライチェーンに関しては情報を収集できていない企業も多く、まずはできるところから取り組んでいくことが必要となります。例えば、位置情報や調達量が分かっているのであれば、AQUEDUCT等のツールを使って簡易的に水リスク評価することから始めることも可能です。水に関する情報がすでにあるまたは、連携をしてすぐに情報が入ってくるという場合は、しっかりと情報を固めてから評価を行っていくことも可能です。
気候変動のシナリオ分析の際に、物理リスクとして、洪水や高潮などの水災害の水リスク評価・対策の検討は実施しているのですが、それ以外の水リスクについて、まだ手を付けられていない状況です。エネルギー企業において詳細調査を行う際は、具体的には何をどのように始めればよいでしょうか。
水リスクとしては洪水や高潮などの水災害のリスクというのも一つのリスクです。その他に物理リスクとしては水量不足、水質面でのリスクもあります。代表的なものとしてはリストアップしたものを棚卸したうえで、企業に一番関連性の高いものを抽出し、それに対してより深掘りした調査をします。深掘りというのは具体的に、地域に根付いた流域および周辺のステークホルダーについても調査することになります。
取組みを進めている企業は、バリューチェーンの皆さまに、どのように働きかけて取り組みを加速しているのでしょうか。
取り組みが進んでいる企業はバリューチェーンの水リスク評価にインセンティブを設けて、きちんと水リスクマネジメントができていると認定された業者を優先して取引を行っていたり、バリューチェーンの企業にCDPの回答結果を提出していただく等の取り組みを行っている企業もあります。
CDP質問状が送られていない企業が存在していますが、送られていない主な理由をお聞かせください。
現在CDPの回答を求められるのが会社の規模の大きさで決まっている。上場企業で上位から300から350社ほどの企業です。今後これが徐々に広がっていくことも考えられます。またサプライチェーンプログラムというものがあり、そこに参加している企業に質問状が送られることもあります。そういった理由で質問状が送られる企業と送られない企業があると考えられます。
また、食料品、飲料、化学といった業界では水リスクが高いと考えられており、優先してCDP-Waterの質問状が送られています。
AQUEDUCTの「水のストレス」で国内(山梨県)を調べたところ、未来の方がリスクが低くなっていました。(今は30~40%。2040年は10%になっていた)
珍しい現象だと思うのですが、理由についてご意見をお聞かせください。
評価に使われているデータはブラックボックスで把握できない部分もありますが、評価をするときには水の資源量や取水量で評価をされるので、資源量が増えるか取水量が減るということが将来シナリオの中に含まれているのかもしれません。
例えば、AQUEDUCTの評価項目にはいくつかありますが、人口が増えると水ストレスが高くなっていき、人口が減ると水ストレスが低くなっていくと予想されます。
TNFDにも水の項目は入るのかについて、情報をお持ちでしたらお聞かせください。
ネイチャーは自然資本になるので水も十分入ると考えています。
企業の目標は、時限を切ることになると思いますが、概ね何年ごろを目標年としている企業が多いのでしょうか。
各企業を見てみると2050年くらいに環境目標を設定して、その中で水の目標を設定している企業が多です。次いで、2030年ごろを目標年としている企業が多いです。
ただし、2030年まではもう10年を切っています。水に関する取り組みは、活動の効果がすぐには現れず、長いスパンで見る必要があります。CDP-Wの設問でも長期的事業計画に水関連問題が組み込まれているか問われ、長期的な目標の期間として10年以下を選択すると減点となります。
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