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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

身近にある樹は大丈夫? 樹木医からの視点

  • 環境

私たちの身の回りには、緑があふれています。庭木、街路樹、公園の植栽、そして田畑や山野…。また、それぞれらは四季折々に姿を変化させ、私たちの目を楽 しませるだけでなく生活に彩りを加えます。日本は温暖な気候で降雨量も多いため、植物が生育するには良好な環境にあるといわれています。しかし…

樹木医からの視点

樹木内のエネルギー循環

Written by HONDA Kazuhiko 本田一彦

樹木は、春になると冬の間に蓄えていた力を使って、新芽を展開させたり花を咲かせたりして、私たちに冬の終わりを知らせてくれます。夏の初めには青々とした葉を伸長させて生命の力強さを訴えかけ、夏の盛りには強い日差しの中に緑陰を作り出して、涼しい空間を提供してくれます。また、秋には葉を紅や黄に色づかせて私たちの目を楽しませたり、実(果実や堅果)をつけて生き物へ食料を供給してくれます。そして冬には、一見じっと眠っているように見えて、実は樹体内にエネルギーを蓄えながら、春に新芽を展開させるための準備をしているのです。

都市域における樹木の現状

街には公園の植栽や道路の街路樹など、人々の生活に潤いを与えることを目的として、たくさんの緑が植えられています。

国土交通省国土技術総合政策研究所が、全国の道路を対象に1987年から5年毎に計4回行なった街路樹の実態調査結果によると、街路樹の本数は2002年までの15年間で、高木は371万本から679万本と1.8倍に、中低木は5,829万本から14,902万本と2.6倍に大きく増加しています。

また、2002年の樹種毎の本数をみると、高木ではイチョウ、サクラ類、ケヤキ、ハナミズキ、トウカエデの順に上位を占めており、1997年調査で初登場したハナミズキが210千本から2002年には343千本と大きく増加しています。中低木ではツツジ類、シャリンバイ、アベリア類、サザンカ類、ヘデラ類が上位を占めており、年による変動はほとんどないようです。

このように、私たちの生活を彩る多くの緑は年々増えて行っているのですが、人々の生活環境と植栽された樹木の生育環境とがうまく合致しているとはいえないような状況もあるようです。

 

樹木の生長に伴い発生する問題

植栽された当初は、目標通りの景観を作っていたと思われるのですが、現在では樹高、樹幹ともに設計当初に想定していたサイズと比較して大きくなり過ぎたことで、管理する側から見て、さまざまな問題が発生しているケースを目にすることが多くなりました。

樹木の生長に伴う問題の一例としては、以下のようなものがあげられます。

  1. 肥大成長した根が、植栽桝を押し上げて破壊してしまう
  2. 肥大成長した根が、歩道の舗装を押し上げて車椅子等の通行を妨げてしまう
  3. 伸長した枝が、標識や信号を隠してしまう
  4. 民家の敷地内に枝が伸長し、枝や葉が落ちる

枝の伸長に伴う問題は、剪定などによる対応が講じられるようですが、管理費用の縮減傾向に伴ない、一度に大きく刈り込んで本来の樹形を損ねてしまうほどの強剪定が実施されていることも少なくありません。また、根の問題は歩道整備に大きく関わってくることであり、舗装工事を伴う対応が求められる場合もあります。いずれにしても、植栽空間と植栽樹種のスケール感が設計当初と現時点で大きく変化してしまっていることが問題の原因となっています。

上記における問題とはあくまでも人間側から見た問題であり、樹木側からすれば、植栽桝や舗装に根の伸長を阻害されていることになるのですが…。

 

生育不良に伴い発生する問題

逆に、生育不良による問題も生じています。主に樹勢の衰えによって病気や害虫の被害を受けてしまい、美観を損ねているものが挙げられます。樹勢の衰えは都市域における生育環境に起因するものが多いのですが、その一因は以下のようなものと考えられます。

  1. 植栽帯や植栽桝への水供給量とその水質
  2. 植栽基盤の土壌成分
  3. 周辺地域における病害の発生
  4. 周辺地域における害虫の発生

植物は生長に必要となる水と養分を根から吸収しますが、土中の水分に溶けている養分量はとても少ないので、生長に必要な量の養分を吸収するためには多くの水分を取り込む必要があります。それで、樹木は絶えず土から水分を吸収し続けています。養分を吸収したあとの大量の水はどこへ行くかというと、葉から蒸散されています。

この蒸散作用のおかげで気化熱が奪われ、夏の暑い日でも樹体内部の温度が上がることがないのです。また、木陰がひんやりと涼しかったり、林の中を歩くと心地よかったりするのは、葉の蒸散効果のおかげなのです。

ちなみに、幹周りが50cmのヒノキが、夏の晴れた日に300リットルの水を土中から吸収して大気に放出している(参考:森川靖 東大演報66,1974)という報告もされています。

日本ではどこへ行っても、アスファルトやコンクリートによって舗装されている道路が多いので、地中に浸透する降雨量は植栽されている樹木にとって十分とはいえません。また、アスファルト舗装によって地表面の温度は異常に上昇してしまいます。さらに、流入する雨水もコンクリートのカルシウム分が溶け出してアルカリ性となることが多いのです。

ちなみに、日本の土壌の多くは森林で創られる褐色森林土であり、pH値は酸性から弱酸性ですので、森林と都市域で生育する樹木では全く異なった生育環境におかれているといえるでしょう。街路樹の生育不良を改善していくためには、このような視点から工夫をしていく必要があります。

また、街路樹や公園植栽では植栽密度が高いことから、病害や虫害が発生すると蔓延しやすい傾向があります。このことからも病害や虫害対策としての適正な植栽密度や樹木の配植について工夫をしていく必要があります。

 

物理的な健全度の低下

台風や強風によって街路樹が幹から折れて倒れてしまうこともあります。原因は樹体内部に腐朽菌が侵入することにより、幹が空洞化してしまうことによりますが、この腐朽菌の侵入経路は樹木に付けられた傷口であることがほとんどです。

都市域の街路樹にとって今、最も脅威なのはこの腐朽菌かもしれません。

意外かも知れませんが、街路樹は簡単に傷つけられています。枝の剪定時に必要以上につけられてしまう傷や、機械で除草する際に根もと付近に付けられる傷はもとより、道路工事で舗装をはがす際に根に付けられる傷や、路上駐車をしている大型トラックの接触傷、バイクや自転車を寄りかからせた時にできる傷など、様々な場面で街路樹は腐朽菌侵入の恐怖と向かい合わせとなっています。

腐朽菌はその種類によって、根から侵入して幹を腐らせてしまうものと、幹から侵入して幹内部を腐らせてしまうものとに分けられます。

それらの腐朽菌は、一度樹木の内部に侵入してしまうと完全に取り除くことは難しいので、普段の管理から侵入口を作らないような対策が必要となります。万が一、腐朽菌に侵されてしまったとしても、緊急に伐採しなければならないほど危険な状態なのか、そうでないのかについては、腐朽菌の種類を把握した上で樹の状況を観察し、診断していくことが大切です。

 

街路樹を資産として考える

樹木も生き物ですから、いずれ寿命を迎えます。勿論、それは人間よりもかなりゆっくりとした時間軸での話しになります。ですから、街路樹などの植栽管理にしても10年後、20年後を見据えた管理をしていく必要があります。そのためには、中長期的な管理計画を作ることも大切です。

植栽当初は小さな苗木でも、時と共に生長し、いずれは大木に育っていきます。そして、大木には生長に要した時間・歴史・周囲の人々の思いが刻まれます。そんな樹木を、都市域に潤いをもたらす存在(資産)としてどうやって健全に育てていくのか、そして、どのような管理を行なって次世代に継承していくのか、ということを管理コストも含めて考える時代になっています。

 

樹木も人間も大切なのは環境づくり

街路樹や公園の植栽が健全に生育できる環境を造りだすことは、人々にとっても生活を豊かにしてくれる環境を創りだしていると考えられます。

樹木の管理方法や、土地に合った樹種など、生き物は生活環境が変化すれば生長の度合いも変化します。また、同じ樹種でもそれぞれに個体差があるので対応は一様ではないかもしれません。

それでも、樹木の生育環境の向上と、人々の生活環境とがうまく折り合いをつけられるような方法はあるはずです。

私たちは、将来に向けたよりよい生活環境をつくるために木々の声を聞きながら、お手伝いをさせていただいています。

 

 

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