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当社は、社会の発展と自社の持続的な成長の両立を実践する「サステナビリティ経営」を掲げ、中期経営計画では重要課題(マテリアリティ)の一つとして「未来志向の社会づくり」を設定、その課題解決に向けて「スマートシティへの対応」や「地域・産業活性化」に取り組んでいます。
日本におけるスマートシティの第一人者である一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事の南雲岳彦さまを交えて、社会課題の解決に向けた当社の取り組みや、未来への期待と展望についてお話ししました。
※役職は2024年6月時点
少子高齢化や気候変動などの社会課題に加え、大規模災害やパンデミック、国際紛争など大きなリスクが顕在化しています。当社はそうした複雑な社会課題の解決に向けて、60年以上にわたり培ってきた技術力と知見を生かし、これまで取り組んできた事業を深掘りして収益拡大を図るとともに、新しい事業機会を創造する「両利きの経営」を強力に進めています。
社会課題の解決に向けて取り組む方針の一つが、分散型社会の実現だと、私たちは考えます。日本におけるGDPの約7割を担う地方を強くすることは、日本の経済を強くすることにつながります。地方や地域が自立するために、エネルギーや水、食料を自ら調達できれば地域の魅力が向上し、人が集まることにより地域の活性化につながると考え、コミュニティ事業やエネルギー事業、そしてスマートシティ事業などに積極的に取り組んでいます。
気候変動などの社会課題がある中で、テクノロジーが飛躍的に進んでいます。地域やまちをスマートにアップデートするタイミングが、今まさに訪れているのだと実感しています。当社としても力の見せ所であり、ビジネスチャンスであると考えていますが、その最先端を走る南雲さんから、現在の地域やまちはどのように見えているのでしょうか。
従来の日本は、まず職ありきで、次に住まいやライフスタイルを決めるという順番だったと思います。郊外に若い世代向けの団地やベッドタウンが多くつくられ、結果として現在の東京一極集中にもつながっていきました。当時はそれが時代に合った選択肢だったわけですが、今になって考えてみると、本来のあるべき姿とは順番が逆転していたのだと思います。やはり住まいやライフスタイルがはじめにあって、次に職があるという順番だったのではないでしょうか。
経済成長の時代を経て、今日では市場と政府の機能分担というような二元論では立ち行かない社会課題が積み上がっています。言い換えると、産官学民が連携しないと課題解決できない時代になっています。経済と社会、経済と環境といった複数の領域が複雑に絡み合う課題が多く、片方を解くともう片方に副作用が出てしまうような課題が増えています。
コロナ禍により、「このままでいいのだろうか」というアラートが多くの日本人の心の中に走ったのではないでしょうか。自分のライフスタイルを問い直す大きな契機になったと思います。地方創生からデジタル田園都市国家構想※への流れは、「分散」する方が最適だろうと気づいた結果だと感じます。個人のライフスタイルの追求とデジタルを通じた仕事の確保、この両立が可能になったことで、日本に残された一つの道が「地方分散」なのではないかと思います。パンデミック以外でも、一極集中している東京で大きな地震が起きてしまったり、テロ攻撃を受けたりすると、全てのリスクがそこに集中し、日本はサバイバビリティの問題に直面します。
今日、「分散はどうあるべきか」を具体的に考える時代となりました。分散した先に地域の中核都市があって、そこからネットワーク状につながっていくコンパクト・プラス・ネットワーク※の具体化が、今まさに問われているのだと思います。
私たちも、分散型社会におけるコンパクト・プラス・ネットワークを念頭に、未来のグランドデザインを進めていきたいと思います。
建設コンサルタント業界は、これまで日本のインフラ整備やまちづくりを担ってきましたが、現在のスマートシティ分野では、デジタルをはじめとした新たな価値やあらゆる企業が参入し、ボーダーレス化が加速しています。この流れは必然であり、未来の社会にはこの多様さこそ必要であると理解している一方で、私たちのポジションはどこにあるのか、南雲さんはどう感じますでしょうか。
建設コンサルタント業界に限らず、日本中の企業や自治体などでも、実は自分のポジションが分からないという状況だと思います。例えば、ある地域の個性や魅力を可視化しようとしても、市民の幸せや生活満足度が何によって成り立っているのかが、これまでは分かりませんでした。そこで一般社団法人スマートシティ・インスティテュートでは、「地域幸福度(Well-Being)指標」という新しい指標を開発しました。この指標により都市や地域の個性や魅力といった特徴が数値で見えるようになりました。まちの個性や魅力もいくつかのパターンに分類できます。このようなデータやパターンを見ることにより、現在のまちのポジションや将来目指すべき方向性などが明確になってきます。
日本では、「心の豊かさ」と「モノの豊かさ」のうち、これまでは「心の豊かさ」が重要視されていたのですが、少し残念なことに、最近は「モノの豊かさ」が優勢になってしまいました。また、社会や地域より個人を優先する傾向も見えてきました。リスキリングなどを通じて、生産性を高めつつ、心の豊かさと両立するような社会をもう一度目指していくべきではないかと感じています。
パラダイムシフトにつながるスマートシティの実現がいよいよ急がれますが、日本のスマートシティは世界から後れを取っているといわれています。
東京はサイエンスやテクノロジー研究の分野においては、実は世界最大級の規模を誇ります。そしてグローバルシティである東京は、資本やスタートアップの収集力、大企業の本社数は世界トップレベルで、大きな磁力のあるまちです。コロナ禍を経て、東京は日本におけるスマートシティの最先端都市として、規模と深さの両方が、加速しています。
一方で、地域にもさまざまな個性があります。都会化ではなく、人間が生きていく空間をつくっていくという方程式がある地域は、まちづくりの多様な資源がありますし、もっと自信を持ってほしいと思っています。例えば、広島県尾道市といったまちを想像すると、穏やかな瀬戸内海やレモン、坂道や神社仏閣、数々の映画のロケ地となったことなど、皆さんの頭の中には思い浮かべる情景がきっとあるでしょう。そうした人をひきつける磁力のあるまちが日本には少なからずあります。これはデジタルとかテクノロジーではない、豊かな自然の土壌の上に生まれてくるタイプではないかと思います。都会型のスマートシティとは違うアプローチです。当初は、スマートシティの主軸はテクノロジーであると思っていたけれど、やはり人が住むためには自然環境や地域コミュニティが重要であると再認識した地域、また国が少なからずあると思います。
まちづくりは、どこを切り取っても同じまちになってはならないと思います。まちの特徴をきちんと捉えることをベースに考えていかなければいけませんね。
新しい価値を生み出すためには、個社でできることは限られています。当社では「共創」こそ、新しい価値を生み出すと考え、コ・クリエーションを進めています。
大学との連携では、京都大学経営管理大学院で国際メガ・インフラマネジメント政策講座を設けています。そこでは東アジア・ASEANにおけるインクルーシブ・スマートシティの実現に向けて国際フォーラムの開催や情報共有を進めています。東アジア・ASEANでは人口集中が加速しており、かつて日本が経験した課題がまさに顕在化してきています。日本の経験をもとに、緩やかかつ確実に経済を発展させるスマートシティの実現を提唱しています。
また、私たちの得意領域である土木(フィジカル)とデジタルを融合し、社会インフラ分野のDXを推進することを目的に、2023年9月にプラナス・エンジニアリング株式会社という新会社(当社50%出資)を設立しました。
インドネシアでは、「スマートガスネットワーク構想」を進めています。京都大学発のスタートアップ企業である株式会社Atomisが開発した次世代高圧ガス容器CubiTan®は、多孔性配位高分子(PCP/MOF)を活用して、室温下での圧縮が難しかったメタンガスをナノレベルでコントロールできるガス容器です。PCP/MOFとは、1gあたりサッカーコート1面ほどの表面積を持つ物質で、ガスを効率的に吸着保持できることから、これまで大きなガスタンクでしか運べなかったメタンガスを小型・軽量化して運べます。インドネシアは天然ガス(メタンガス)採取国ですが、パイプラインを引かないと運べないため、家庭ではLPガスが使用されています。CubiTan®により、天然ガスを運ぶことができ、装着されたIoTデバイスを通じてその利用状況が遠隔でモニタリングできるため、「配送の最適・省資源化」や「残容量把握による利用者の利便性向上」などが実現できます。また、インドネシアの豊富なバイオガスの活用によりカーボンニュートラルへの貢献も期待できます。こうしたスマートガスネットワーク構築によるエネルギーチェンジを2027年までに実現しようと進めています。
日本国内では、デジタル田園都市国家構想にも記載されている「デジタルの力で地域に豊かさを届けていくこと」を念頭に、IT技術と土木技術の融合により、顧客(官公庁)要望に最適なバリューを提供することを目指し、新たにプラナス・エンジニアリング株式会社を起ち上げました。まちの中でも河川や道路のインフラによって所管が変わったり、デジタルにまだ抵抗のある方がいらっしゃいますので、私たちがその壁を壊していかなければならないと思います。
私は研究者として、自分ができることを積み重ねていますが、自分の研究領域だけでなく、さまざまな分野と連携していくことが技術の高度化にもつながるのだと思います。
スマートシティをより拡大させて社会実装するためには、どのような視点が必要でしょうか。
まずはサイエンス・テクノロジー研究のクラスター(群・集団)が存在し、そこに起業マインドにあふれたアントレプレナーやイノベーター、そして投資家が集まることが大切です。このような集積を実現するには、アントレプレナーやイノベーター、投資家が住みたくなるウェルビーイングな環境がまちには備わっていないといけないと思います。
大学によるサイエンス・テクノロジー研究の高度化に向けて、文部科学省がCOI-NEXT※や国際卓越大学制度※、JPEAKS※を始めています。アントレプレナーにふさわしい優秀な人材は、若い人のみならず、大企業の中にも相当数いると思いますので、そうした人材が活躍できる仕組みが必要です。
日本にはさまざまな社会課題が山積していますが、「未来志向の社会づくり」について、皆さんのお考えをお聞かせください。
スマートシティの分野では、そもそも利便性や暮らしやすさ、心地よさといったリバビリティをテクノロジーでいかに高めるのかという議論を、これまでしてきました。しかし、それだけでは必ずしも人々の幸せに結びつかないという課題が露呈してきました。その課題への解決策が「ウェルビーイング」、つまり市民の幸福感への注目ということだと思います。
市民のウェルビーイングが高まるまちづくりには、いくつかの手段がありますが、その一つが「イノベーション」であり、世界はイノベーションを生み出す研究者やアントレプレナーといったプレーヤーをどのように集められるのか、ということに意識を傾けています。
また日本には避けて通ることができない国土強靱化の課題もあります。リバビリティ(暮らしやすさ)を基本的な要件としつつ、その上位概念にウェルビーイング(幸福感)、そしてその実現手段としてイノベーションとサステナビリティがあります。さらに、このような構図が危機時にも揺るがないものとするためのレジリエンスの仕組みをどう進化させていくのかということが、日本の新しいスマートシティの姿になると考えています。これらの構成要素は、これまでは一体化したかたちというより、機能別ないし縦割り的に捉えられてきました。今こそ、それらを統合的に構築していくべきタイミングであると思います。
私が所属する技術創発研究所ではイノベーションを起こすことがミッションの一つですが、イノベーションには、「想像を大きく膨らませること」が必要だと思います。今の技術に対して将来どのようなものが予測されて、社会はどう変化していくのかを想像して研究を進めていますが、以前は夢のようだった世界が、今まさに実現しかけています。私たちが思い描くものは現実に形づくられていくのだと、実感しています。どのようなまちがサステナブルか、現在は予測できないことも多くありますが、大きなビジョンに向かって自分が貢献できることから進めていくことが重要であると思います。
吉田さんのような若い方が、「やりたい」と思う環境をつくることが、新しいイノベーションにつながっていくのではないかと感じました。若手研究者でも外部の研究者や技術者、もしくは投資家といった多様な人たちとつながり、新しいインプットが集約され、化学反応を起こしてイノベーティブなアウトプットを量産できるような仕組みやサイクルができてくる環境をつくっていくことが重要ですね。
私はCVPR2024「第8回AI City Challenge:Track1.Multi-Camera People Tracking(複数カメラ間人物追跡)」で成果を上げることができましたが、それは八千代エンジニヤリングという土壌があったことが大きいと思います。自分のような若手でも、新しい知見を蓄積して、アウトプットできるサイクルができていると実感しています。
当社は技術創発研究所や事業開発本部を組織化するなど、従来の枠をはずし、新しい領域にチャレンジできる環境をつくってきましたが、若い人たちが自由に発想できる組織にしていかなければならないということを改めて感じました。
「未来志向の社会づくり」を社会実装することこそ、私たちの使命であり、価値であると痛感しました。さまざまな関係者を巻き込み、共創して進めていきたいと思います。
八千代エンジニヤリングさんは、まさに産官学、そして住民までを含めた多様なステークホルダーをオーケストレーションする立場にいらっしゃると思います。縁の下の力持ちがいないとテクノロジーは実装されず、社会課題やウェルビーイングとのマッチングはできません。大変期待されている立場ですので、ぜひ日本をリードしていただきたいと思います。
自信を持って、今の仕事に臨んでいきたいと思います。
それこそがウェルビーイングです!
※デジタル田園都市国家構想:デジタル技術の活用により、地域の個性を生かしながら地方を活性化し、持続可能な経済社会を目指す取り組み ※コンパクト・プラス・ネットワーク:人々の居住や必要な都市機能をまちなかなどのいくつかの拠点に誘導し、それぞれの拠点を地域公共交通ネットワークで結ぶ、コンパクトで持続可能なまちづくりの考え方 ※COI-NEXT:国立研究開発法人科学技術振興機構が進める共創の場形成支援プログラム ※国際卓越大学制度:文部科学省が、国際的に卓越した研究の展開および経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学を国際卓越研究大学として認定し、助成する制度 ※JPEAKS:日本学術振興会による地域中核・特色ある研究大学強化促進事業
コンピュータビジョン分野における世界最高峰の国際会議の一つであるCVPR(The IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition 2024)内のコンペティション「第8回AI City Challenge:Track1.Multi-Camera People Tracking(複数カメラ間人物追跡)」において、参加421チームの中で最高精度を達成しました。ワークショップの論文・プレゼンテーションは世界2位として表彰され、精度については世界一を獲得しています。Track1.Multi-Camera People Trackingは、複数台のカメラに映った同一人物を追跡する精度を競うものです。
当社の技術創発研究所AI解析研究室は屋外公共空間における人流解析技術の研究を、中部大学山下隆義教授の技術指導のもと実施していることから、本Trackに参戦しました。
当社はコンペティションにあたり画像特徴量のクラスタリング(データをグループ分けする手法)を改善することで、高精度に同一人物の追跡を行う当社独自の手法を提案しました。
人流解析の定量化と高度化が実現でき、デジタルツインやスマートシティなど、さまざまな分野での貢献が期待されます。
この度はCVPRへの論文提出ならびに現地参加を果たせたことを大変うれしく感じております。新卒入社時にAIの知識を持ち合わせていなかった未熟者がこの成果を上げられたのも、ひとえにご指導いただいた当社内の皆さまおよび中部大学の山下教授のおかげであり、深く感謝を申し上げます。学会では一足飛びに進化するAI解析技術を目の当たりにし、日頃の研究に生きる強い刺激を得ることができました。近年、当社が専門とする土木事業では新技術による変革が求められています。変革にはわれわれ研究所が有する新技術の知識に加えて、土木分野の専門知識が不可欠です。引き続き、社内の専門技術者との分野を横断した共創によって社会課題に対する「新しい解」を追求する所存です。