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八千代エンジニヤリングが毎月お届けするちょっとイイ話

地球の海面変動 砂嘴は語る2

  • 環境

いつも豊かな表情を見せてくれる海に魅かれる方は多いと思いますが、海岸線自体の変化にまで気をとめる方は少ないのではないでしょうか。しかし実は地球誕生以来、その姿を大きく変え続けてきた海岸線。今月も、海岸地形の移ろいについてお話します。

砂嘴は語る2

野付崎

Written by oishi 大石朗

前回に引き続き、砂嘴(さし)のお話です。今回は北海道の野付崎を眺めながら、地球の海岸形成とその変化についてご紹介します。

北海道の道東、国後島に向かって、奇妙な半島が延びています。野付崎です。海岸延長26kmの分岐砂嘴です。

この野付崎の砂嘴は、知床半島と国後島の間を南西に向かって進む沿岸流が、半島側の海食崖を削って土砂を生産し、野付崎付近まで運び、堆積させていったことにより形成されたものです。

海岸線の形成

一般的に砂嘴は湾口に多く形成されます。沿岸流は湾口に達すると、それまでの方向を変化させて、緩やかに湾内へ向かうようになります。そして、湾内へ運搬されてきた土砂が順次堆積することによって、砂嘴が次第にのびて行くわけです。前回お話した天橋立は、こうした形成現象の代表例です。

一方、野付崎に代表される分岐砂嘴は、一般的な砂嘴の根元部分に当たる陸地が海食されて形成されるものです。根元の陸地が海食され、後退して行くと、元の砂嘴の外洋に面した部分も先端の湾曲部を残して共に後退し、新しい状態における砂嘴の先端がのびて行きます。そして、このような変化が間欠的に繰り返されると、元の砂嘴と現在の砂嘴の先端が湾の内側に向かって分岐する状態になって行くのです。


写真1:野付崎

野付崎は、士別川河口の南側から東南東方向に伸びる延長約26km、最大幅4kmの規模をもって、9群に分岐しています。砂嘴に囲まれる野付湾の水深は4m以内の浅瀬です。

野付崎の地形は、外海に面する浜堤列とそれらに斜交する内湾側へ湾曲する砂嘴群を構成する浜堤列、および浜堤列間に分布する堤間凹地によって構成されています。

野付崎の砂嘴は図の通りa~iの9群(砂嘴先端のオレンジ色で示された部分)に区分されますが、これらを大別すれば①2000年前頃に形成されたb、c、dの尖岬、②1000年前頃に形成されたf、g、hの尖岬、それに③500年前以降に形成され、現在も成長が続いているiの尖岬、の三つになります。残りのaは①より古い時期(4000年前)に形成された砂嘴の名残り、eは①と②の間の低海水準期(1500年前)と推定されています。なお、これらの形成時代は、砂嘴を覆うテフラ(火山灰)の噴出時代によって決められました。





ところで野付崎の形成は、前述の通り、激しい潮流が陸地を浸食することから始まりますが、私たちはその形成過程を、国後島に昇る朝日に照らし出される流氷から知ることができます。 北海道オホーツク海沿岸の冬の風物詩、流氷はもともとアムール河河口から押し出された氷群がゆっくり南下してきたものですが、年によっては、知床半島を回り込んで根室半島にまで到達することがあります。根室海峡の潮流もまた、南下しているからです。この海峡特有の激しい沿岸流は、知床半島南端の付け根付近の崖を削りこみ、多量の土砂を抱えて行きます。そして、国後島・北海道間の海峡を通過する辺りで運搬エネルギーを使い果たし、次々と土砂を落としていきます。このようにして堆積した土砂が、また新たな海岸線を形成してきたのです。


写真2:国後島に昇る朝日

写真3:知床半島に到達した流氷

写真4:流氷とともにアムール川河口より飛来してくるオオワシ

地質技術者の役割

先月と今月の2回にわたって、砂嘴をテーマに海面変動と海岸線の変化の例をみてきました。

一見、昔からほとんど変化しないような海岸地形も、その形成年代を通してみると、日々ダイナミックに変化し続けていると言えます。日本ではここ数十年、沿岸埋立てや干拓などの人為的な影響によって、海岸線が大きく変化しました。かつてはあの天橋立でも砂浜が洗掘されて、「天の串刺し」と揶揄されるほどやせ細った時期がありましたが、その原因は砂の供給源であった河川の改修が進んで土砂排出量が減ったことや、江尻港や日置港の築港といった人為的影響によるものでした。(幸いなことに最近では、突提工事やサイドバイパス、養浜工によって昔の姿に戻ったと言われています。)

また、地球温暖化の影響によって、今世紀末には海面が地球全体で1m上昇するとも言われています。実際、南太平洋の島々では、すでに海面上昇の影響で海岸侵食が進行し、海岸が大きく削られ始めています。

地球全体、あるいは日本列島規模で見ると、海岸地形は人為的影響にしろ、自然現象にしろ、長い間に変化を繰り返してきました。1万年前からの大規模な海面変動は、日本全国の海岸に大きな侵食作用と堆積作用をもたらし、天橋立や野付崎をはじめとする砂嘴を日本各地に一斉に形成しました。

地球温暖化は、海面の上昇をもたらそうとしています。砂嘴に注目すると、沿岸流は勢いを増して砂嘴を侵食し、今後次第にやせ細って行くものと予想されます。海岸はまたその形を大きく変えようとするでしょう。しかし予想はできても、私たち人間が日本全国すべての海岸でこれを食い止めることは不可能です。少なくともハード的対応手法のみに頼っていては無理でしょう。

では、私たちはこうした大自然の営みに対してなす術もなく、ただ黙って指をくわえているしかないのでしょうか。 私は違うと思います。その土地における地形地質の生い立ちを的確につかんでこれから発生する事象を予想し、時間と費用のバランスを考えるといった、ソフト的アプローチによる「対処のしかた」を創造して行くことは可能なはずです。そしてこれを実践することが、現在、私たちコンサルタントの地質屋に求められている役割かな?と考えています。

人がこれからも自然と共存していくために。


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