河川のスカム(浮遊汚泥)の目視判断をAIで代替
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河川のスカム(浮遊汚泥)の目視判断をAIで代替
大阪市内の住宅密集地を流れる平野川では、低平地にある感潮河川(※1)であることや、大雨後には周辺の合流式下水道(※2)から下水が放流されることなどから、スカムの大量発生が30年以上にわたり課題となっています。スカムがひとたび発生すると、景観を損なうだけでなく、悪臭も発生します。地域住民にとっては切実な問題であり、住民からの苦情や目撃情報により管理職員が現場へ向かい、船舶の航行などによる振動や波でスカムを沈降させているのが現状です。しかし、スカムが「なぜ」「いつ」「どこで」発生するのかが把握できていないため、発生を予測できず、適切な対策が見いだせない状況でした。
そのため大阪府では、平野川沿川17地点に設置した河川カメラを用いて、スカムの発生要因と発生地点の調査を行っていましたが、1年365日×カメラ17台分の映像を目視で確認するには膨大な手間と時間がかかる上、担当者による判断のばらつきが生じるという課題もありました。
そこで、効果的かつ適切な対策の立案に向けて、AIの画像認識を用いてスカムの発生や移動を数値化・可視化し、「いつ」「どこで」「なぜ」「どのようなタイミングで」発生し、どこへ移動するのか、その動態を効率的に把握するための技術開発に取り組みました。
※1 感潮河川:海域の潮の干満の影響で水位が変動し、満潮時には流れが逆流することもある河川。
※2 合流式下水道:汚水と雨水を一本の管で集め、下水処理場へ送る方式。主に、早くから下水道整備を進めてきた大都市で採用されている。
スカムの発生状況例
平野川位置図
まず、水面に浮遊するスカムのみを正確に認識するAIモデルの検討から着手しました。対象となるカメラはそれぞれ背景が異なり、時間帯や気象条件もさまざまです。また、水面のスカムは細かく点在しつつ面的に広がっている上、水面にはスカム以外のごみやさざ波、雨、空や周辺の映り込みなど紛らわしい画像も多い中、多種多様な教師画像を3,000枚以上用意しました。これらを学習させることにより、95%を超える高精度なモデル(Attention U-netモデル)を構築しました。
次に、構築したAIの判別結果からスカムが広がる面積をも求め、カメラ内の水面の面積に対する割合を「被覆率」として算出することで、発生状況を数値化しました。さらに、時間の経過とともに変化する各地点の被覆率をグラフで表現し、河川の水位や下水処理場からの放流量と比較しました。
その結果、3カ年分の映像から、降雨後の合流式下水道から河川への下水放流や河川水位の変動との関係性、大量に発生している地点、移動状況を見える化し、発生要因の仮説を立てることができました。
今回の取り組みにより、スカムが発生する地点やタイミングがおおむね予想できるようになったことから、今後は大量に発生する前に迅速に対応することが期待できるようになり、対策装置の設置などの予防保全措置の立案、対策実施に向けた基礎データを得ることができました。また、AIを活用することで人的労力や判断の個人差の解消や経年比較などが実現し、河川維持管理にかかる作業の効率化、生産性の向上などが期待されます。
学習させた教師画像例
・上段:スカム部分を忠実に着色した教師画像
・下段:紛らわしい画像として「スカムではない」と学習させた教師画像
スカム発生状況の数値化
スカム発生状況の可視化例
・上段:各地点のスカム被覆率を時系列に表示したマップ
・下段:河川水位・潮位の変化、降水量、下水放流量の経時変化
プロジェクト詳細