歴史的河川施設機能評価
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歴史的河川施設機能評価
河川における伝統技術は、洪水に対して一つの施設のみで防護するのではなく、システムとして被害を抑えるという特徴を持ち、長年に渡る試行錯誤を経て確立された個々の川の性格を巧みに生かした総合技術です。近年の大規模水害への対応として、ハード・ソフトが一体となった治水対策を推進する上でも参考とすべきであり、既存の効果的な技術及び施設を保全・管理し、将来へ引き継いでいく必要があります。
兵庫県市川の砥堀工区には、江戸・明治時代にかけて築造された2つの農業用水取水を目的とした斜め堰(花田井堰・飾磨井堰)があり、それらが全体で機能することで現在まで姫路市の治水・利水を支えてきたとされていましたが、これまで水理機能の定量評価は成されていませんでした。一方、花田井堰~飾磨井堰間の流下能力向上のため、河川管理施設等構造令に適合させた河道に直交する可動堰改築が予定されていました。しかし可動堰改築には管理手間が増える等の課題もありました。そこで、市川の治水安全度向上及び利水機能維持のため、
① 各施設の機能を3次元流体解析技術により明らかにし
② 将来に引き継ぐべき伝統的治水・利水技術を抽出し
③ それらの機能を考慮した水理面、環境面、経済面、管理面において合理的で持続可能な河川改修計画策定に向けた検討
を行いました。
市川砥堀工区(国土地理院 基盤地図情報より作成)
堰等の越流を伴う施設周辺の流れを数値シミュレーションで正確に評価する手段としては、3次元流体解析技術の適用が有効です。
3次元流体解析により花田井堰に対して、河川整備計画目標流量を流下させた場合の「斜め堰(現況)」と「直交堰」の場合の流況を比較しました。花田井堰では、斜め堰の方が直交堰に比べ、堰上流約200m区間に渡り水位低下が見られました。その要因は、花田井堰を越流する流れが堰軸直交側に流向が変化し、堰上の越流幅が広がり、単位幅流量が小さくなることで越流水深が小さくなるためであると推定されました。一方、堰地点での流向変化は下流側局所洗掘等の悪影響を及ぼす場合もありますが、花田井堰地点では下流右岸には砂州が形成され侵食を緩和する河道特性を有しているため、特に問題とはならない状況にありました。また、「斜め堰(現況)」と「直交堰」の場合の取水量を比較すると現状の斜め堰の方が取水量は大きくなりました。当時の利水者が河道形状と斜め堰を上手に組み合わせ、取水効率を高めようとした結果と考えられます。
その結果に基づき流下能力を再評価した結果、計画されていた井堰全改築を行わず、流下能力のネックとなっていた花田井堰~飾磨井堰間の河床掘削、堤防嵩上げ、樹木伐採を行うことで流下能力が確保可能な河道改修計画を立案できました。
※2021年9月時点の情報です。
3次元流体解析による花田井堰流況詳細図
プロジェクト詳細