風で揺れる橋を“空力学”で守る
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風で揺れる橋を“空力学”で守る
風で橋が落橋した事故をご存知でしょうか。アメリカ・シアトルにあるタコマ・ナロウズ橋は、1940年に風により橋が振動し、そのまま崩壊するという痛ましい事故に見舞われました。日本の道路橋示方書においては、風速40m/sを想定した設計を実施していますが、タコマ・ナロウズ橋はそれよりも低風速で落橋に至ったといわれています。
これからご紹介するのは、現在整備中である有明海沿岸道路において、福岡県・大牟田市内を流れる大牟田川渡河部に、国内最大級の中央支間150mを有する桁形式の混合橋(5径間連続鋼・コンクリート混合箱桁)として暫定供用された大牟田連続高架橋のⅡ期線橋梁の設計です。
本橋は、橋梁中央部に鋼床版箱桁形式が採用していること、最大支間が150mであることから風で揺れやすい構造特性を有していました。そのため、暫定供用に際しては、制振対策が設置されていました。しかし、同形状・同構造が並列状態となる将来完成時に際しては、渦励振(うずれいしん)現象(限られた風速域で発生する規則的な鉛直たわみ振動)や、ギャロッピング現象(一度発生すると急激に振動が大きくなる発散的な振動)の発生が懸念されていました。特に、施工済みのⅠ期線橋梁が振動することが懸念されており、これから紹介するⅡ期線橋梁の設計においては、Ⅰ期線橋梁も含めた将来完成時の耐風安定性を確保することが課題となっていました。
橋に発生する渦のイメージ
施工済みのI期線橋梁
I期線に設置された抑流板
本プロジェクトでは、Ⅱ期線橋梁を架けることで発生する振動現象の対策(耐風対策)の立案に向けて、①実橋の振動特性検討、②橋梁の耐風安定性検討、③橋梁の制振対策検討のという3つの検討を行いました。
①実橋の振動特性検討
橋梁の耐風安定性を把握する際に、その振動特性を把握することは非常に重要ですが、本橋のような混合橋の振動特性は参考にするデータがありません。そのため、供用中の自動車専用道路の1夜間全面通行止めを行い、Ⅰ期線橋梁を強制的に振動させる実橋振動試験を実施しました(信頼性の高い起振機を使用)。試験により得られた実橋の風への抵抗性は、机上で計算された数値より大きいことが分かりました。
②橋梁の耐風安定性検討
①の検討で得られた結果を踏まえ、将来完成時における橋梁の耐風安定性を検討しました。方法としては、1/90の模型を用いた簡易風洞試験を実施しました。結果、将来完成時に無対策では問題は解決されないことがわかりました。
③橋梁の制振対策検討
問題を解決するために、現況の耐風対策(抑流板の設置)を基本に、その高さや角度・枚数を変えた複数ケースで模型試験を実施し、最も有効な対策案を検討しました。
以上のように、本業務では、実橋の振動試験や模型を用いた耐風対策検討試験を実施し、橋の将来完成時においても安全な構造を設計・計画を実施しました。
実橋振動試験状況(起振機の据え付け状況)
実橋振動試験に使用した起振機
制振対策の検討(煙を用いた流れの可視化試験)
プロジェクト詳細